「72歳の男性。主訴は頻尿。難聴がある。トイレは我慢できるが、夜間に少量の尿失禁があり、前立腺肥大症と診断された。以前から腰が冷えてだるい。舌は淡、脈は弱を認める。」治療方針として最も適切なのはどれか。
正答:2
正答:2
難聴・腰が冷えてだるい・夜間の失禁・舌淡・脈弱は腎陽虚。固摂がゆるんで尿が漏れているので、陽気を補う。正答は2。
同じ症例を東洋医学で読み、腎虚を陰か陽かに振り分けられるか。「冷えてだるい」の冷えが決め手になる。
耳は腎の竅なので難聴は腎の不足を示し、腰は腎の府なので腰のだるさも腎を指す。ここに「冷えて」が加わり、舌が淡く脈が弱いので、熱の所見はなく陽気の不足。腎陽虚である。腎には固摂の作用があり、これが弱ると尿を保持できずに漏れる(腎気不固)。腎気虚の段階では頻尿・遺尿が出て、進行して腎陽虚になると冷えを伴う。したがって方針は不足している陽気を補うこと。陰液を補うのは腎陰虚(五心煩熱・盗汗・舌紅少苔・脈細数)に対する治法で、冷えのある本例とは逆。精の漏出を防ぐのは遺精・早漏など精そのものが漏れる場合の表現で、本例の主体は尿。痰を取り除くのは痰湿が停滞しているときの治法で、該当所見がない。
腎虚と分かっても陰陽で迷う。冷えの有無が決め手で、冷えがあれば陽虚、熱感があれば陰虚。また「精の漏出を防ぐ」という肢は腎の固摂に関わる表現なので惹かれやすいが、漏れているものが尿か精かで対象が違う。
腎の作用:蔵精(成長・発育・生殖の源)、主水(水液代謝の調節)、納気(吸気を深く受け入れる)、主骨生髄、開竅於耳、固摂(尿・精・胎を保持する)。腎気虚では夜間頻尿・遺尿・遺精・帯下が出て、腎陽虚になると畏寒肢冷・腰膝の冷痛・五更泄瀉・浮腫が加わる。腎陰虚では五心煩熱・盗汗・眩暈・耳鳴・舌紅少苔・脈細数となり、同じ腎虚でも治法が正反対になる。
腎虚まで導いたうえで、陰虚の治法と陽虚の治法を並べる。さらに固摂という共通概念を使った肢を混ぜる。解法は、(1) 臓を決める、(2) 寒熱で陰陽を決める、(3) 漏れているものが何かを確認して治法の対象を合わせる。
難聴で腎、腰のだるさで腎、そこに冷えと舌淡・脈弱が加わるので腎陽虚。腎の固摂が弱まって尿を保持できず夜間の失禁が起きている。方針は陽気を補うこと。陰液を補うのは腎陰虚への治法で寒熱が逆、精の漏出を防ぐのは遺精などが対象、痰を取り除くのは痰湿の所見があるときで、いずれも本例と合わない。