「58歳の女性。6日前から右肩のこり感があった。昨日から右肩甲骨内側の痛みと右前腕橈側から母指・示指のしびれが出現した。右上肢の挙上障害はなく、衣服のボタンかけにも異常はない。下肢に症状はない。」神経学的所見で正しいのはどれか。
正答:4
正答:4
右肩甲骨内側の痛みと、右前腕橈側から母指・示指へのしびれという分布は第6頸神経根(C6)の領域で、肩の挙上障害がなく、手の巧緻運動(ボタンかけ)も下肢も正常なことから、脊髄症ではなく片側のC6神経根症(頸椎症性神経根症)と読む。神経根症は末梢の障害なので、その根が担う深部腱反射が低下する。C6が関わる腕橈骨筋腱反射の減弱が正答。
症例文から障害高位(C6神経根)を同定し、神経根症=末梢性(下位運動ニューロン)障害として「深部腱反射は低下、病的反射は出ない」と判断できるか。さらにワルテンベルグ反射・指鼻試験・バレー徴候がそれぞれ何を見る検査かを区別できるか。
症状の分布が鍵になる。右前腕橈側から母指・示指へのしびれはC6皮膚分節、肩甲骨内側の痛みは頸椎由来の放散痛で、右上肢の挙上障害がない(三角筋=C5は保たれる)、ボタンかけが正常(手内筋=C8・T1と巧緻運動は保たれる)、下肢に症状がない(脊髄症を否定)という所見がそろう。これは椎間孔で第6頸神経根が圧迫される頸椎症性神経根症の典型像で、神経根症では障害された根に一致した知覚低下・筋力低下と、その根が反射弓を構成する深部腱反射の低下または消失が起こる。腕橈骨筋腱反射(橈骨反射)は橈骨茎状突起を叩いて腕橈骨筋の収縮を見る反射で、反射弓は橈骨神経・C6〜C8を通る。C6根症で減弱するのはこの反射と上腕二頭筋反射(C5・6)。一方、ワルテンベルグ反射は上肢の病的反射、バレー徴候は軽い中枢性麻痺の検査、指鼻試験は小脳の協調運動の検査で、いずれも神経根症では陽性にならない。
神経根症(末梢性)と脊髄症(中枢性)の区別が最大の論点。神経根症は片側・分節性で、深部腱反射は低下し病的反射は出ない。脊髄症は両手のしびれ・巧緻運動障害・下肢の痙性・腱反射亢進・病的反射陽性・膀胱直腸障害。本例は「ボタンかけ正常」「下肢症状なし」で脊髄症を否定している。また、指鼻試験(小脳)、バレー徴候(錐体路)、ワルテンベルグ反射(錐体路)はそれぞれ見ている系が違うので、名前だけで「陽性=異常っぽい」と選ばない。
頸椎の脊柱管は第5〜6頸椎部で最も狭く、頸椎症の神経根症・脊髄症はこのレベルに多い。神経根症では障害根に一致した知覚低下、筋力低下、筋萎縮(母指球・小指球・虫様筋)、深部腱反射の低下が起こり、スパーリングテストやジャクソンテストで放散痛が誘発される。上肢の深部腱反射と高位は、上腕二頭筋反射 C5・6、腕橈骨筋腱反射 C6(〜8)、上腕三頭筋反射 C6・7、という対応で覚える。知覚は母指・示指がC6、中指がC7、小指がC8、運動の指標筋は肘屈筋C5、手背屈筋C6、肘伸筋C7、中指深指屈筋C8、小指外転筋T1。
選択肢に「陽性」の所見を3つ並べ、「減弱」だけを1つ置く構造。異常所見=陽性という先入観で1〜3に引かれる。解法は、(1) 症例から高位(C6)と病変の性質(末梢=神経根)を確定、(2) 末梢なら腱反射は低下・病的反射は陰性、(3) 協調運動・錐体路の検査は別系統として消す。
肩甲骨内側の痛みと前腕橈側〜母指・示指のしびれはC6神経根の症状。挙上障害なし(C5温存)、ボタンかけ正常(手内筋・巧緻運動温存)、下肢症状なし(脊髄症否定)なので、頸椎症性神経根症と判断する。神経根症は下位運動ニューロン性なので、障害根が反射弓をつくる深部腱反射は低下し、病的反射は出ない。C6が関わるのは腕橈骨筋腱反射(橈骨反射)と上腕二頭筋反射。ワルテンベルグ反射と バレー徴候は錐体路障害、指鼻試験は小脳障害の所見で、本例では陰性。