次の症例の病証・病態で最も適切なのはどれか。「60歳の男性。3か月前に知人との信頼関係が壊れ、強いいらだちを自覚してから下腹部の脹り、便秘がみられ、最近は頭痛や目の充血とともに尿の出も悪く残尿感が強くなった。寝汗はない。舌質は紅、舌苔は黄、脈は弦数を認める。」
正答:3
正答:3
強いいらだちから下腹部の脹りと便秘が出て、その後に頭痛・目の充血・排尿困難が加わった。舌質は紅、舌苔は黄、脈は弦数。気滞が熱に転じた肝鬱化火。正答は3。
気滞の病証が熱化したことを、舌脈と上炎症状の追加から読めるか。
信頼関係が壊れて強いいらだちが起こると、肝の疏泄が失調して気の巡りが滞る。これが肝鬱気滞で、脹る痛み、下腹部の脹満、便通の異常、脈は弦となる。ここまでは熱の所見がない。ところが本例はその後に頭痛、目の充血、尿の出が悪く残尿感という症状が加わり、舌質は紅、舌苔は黄、脈は弦数となっている。紅舌・黄苔・数脈はいずれも熱を示し、頭痛と目の充血は熱が上に昇った所見である。つまり滞った気が長く鬱すると熱を生じ、肝火となって上炎した状態で、これが肝鬱化火。もとの気滞の所見(弦脈、下腹部の脹り)が残っていることも、肝鬱から化火した経過を示している。
肝の病証は段階と虚実で並ぶ。肝気鬱結(気滞)→ 肝鬱化火(実熱)が一本の線、肝血虚(血の不足)→ 肝陽上亢(陰虚陽亢)がもう一本。肝鬱化火と肝陽上亢はどちらも上炎症状を出すので紛らわしいが、肝鬱化火は実熱で舌紅・苔黄・脈弦数、肝陽上亢は陰虚が土台なので寝汗・腰膝のだるさ・脈弦細数を伴う。本例が「寝汗はない」とわざわざ書いているのは、肝陽上亢を消すためのしかけ。
肝の疏泄機能は情志の調節を担う。激しい怒り、抑鬱、驚き、恐れなどの情志の変化があると疏泄が失調して肝鬱気滞となり、さらに肝鬱化火となって生じた肝火が上炎する。上炎した火が耳竅を塞げば耳鳴り・難聴が起こる。肝と胆は表裏で、病態は相互に伝変しやすく、足少陽胆経は耳をめぐる。肝鬱化火の治法は疏肝清熱で、太衝・行間・期門・支溝・陽陵泉などを用いる。尿の出が悪くなるのは、肝経が陰器をめぐり、肝の疏泄が三焦の水道にも関与するため。
経過を時系列で示し、途中から症状の質を変える。解法は、(1) 初発症状で基礎の病証を決める、(2) 追加された症状と舌脈で熱・虚実の変化を読む、(3) 否定文(寝汗はない)で消える病証を除く。
いらだちから下腹部の脹りと便秘が出た段階は肝気鬱結。その後に頭痛・目の充血・排尿困難が加わり、舌質紅・舌苔黄・脈弦数となれば、鬱した気が熱を生じて上炎した肝鬱化火。寝汗がないことで陰虚を土台とする肝陽上亢は消える。舌淡・細脈の肝血虚とも反対。