次の症例の病証に対する治療穴として最も適切なのはどれか。「65歳の男性。数か月前から抜け毛が多くなってきた。最近は下肢と下腹部が冷え、朝方に下痢をすることが多い。舌質は淡、舌苔は白、脈は細弱を認める。」
正答:4
正答:4
抜け毛、下肢と下腹部の冷え、朝方の下痢。舌質は淡、舌苔は白、脈は細弱。腎陽虚の所見がそろう。温陽に働く督脈の命門を用いる。正答は4。
冷えと五更泄瀉から腎陽虚と決め、温陽に適した督脈の経穴を選べるか。
腎は精を蔵し、髪は腎の華とされるので、腎が衰えると抜け毛が増える。腎陽は全身を温める根本であり、これが不足すると下半身、特に下肢と下腹部が冷える。朝方の下痢は五更泄瀉と呼ばれ、夜明け前に陽気がまだ立ち上がらない時刻に起こる下痢で、腎陽虚(あるいは脾腎陽虚)の代表的な所見である。舌質が淡・舌苔が白・脈が細弱であることも虚と寒を示す。治療は温陽が主となる。命門は督脈の経穴で、腰部、後正中線上、第2腰椎棘突起下方の陥凹部にあり、腎兪の間に位置して腎陽を温める働きをもつ。督脈は陽脈の海であり、その中でも命門と腎兪は温陽に効果があるとされる。したがって命門を選ぶ。
選択肢が4つとも督脈の経穴なので、経では絞れない。決め手は高さで、下焦を温めるなら腰部でなければならない。陶道・神道・霊台はいずれも胸椎の高さにある。命門という名前自体が生命の根本を意味し、腎の陽気の宿るところとされることも手がかりになる。
命門の周囲は温陽の要穴が集まる。腎兪は命門の外方1寸5分、志室は外方3寸で、いずれも第2腰椎棘突起下縁と同じ高さにある。腎陽虚の治療では、これらに加えて臍下丹田にあたる関元、脾腎を補う脾兪・足三里・三陰交、五更泄瀉には天枢・大腸兪などを併せ、灸を主体とする。痹証のうち寒邪が主体の痛痹でも、腎兪・命門・関元に施灸して温陽散寒をはかるとされ、命門の用い方は共通している。
同じ経の経穴を4つ並べ、高さだけで区別させる。解法は、(1) 病証から治法(温陽・清熱など)を決める、(2) 治法に対応する部位(下焦か上焦か)を決める、(3) 各経穴の高さを思い出して選ぶ。
抜け毛、下肢と下腹部の冷え、朝方の下痢(五更泄瀉)、舌淡・白苔・細弱脈はいずれも腎陽虚。治法は温陽で、下焦を温める督脈の経穴を選ぶ。命門は第2腰椎棘突起下方にあり腎兪と同じ高さで、腎陽を温める代表穴。陶道・神道・霊台はいずれも胸椎の高さで下焦を温めない。