「37歳の女性。主訴は左顎関節痛。2か月前から職場のストレスとともに痛みを自覚し始め、月経前には痛みが増悪する。胃のもたれ感、胸やけ、嘔気を伴うこともある。」病証として最も適切なのはどれか。
正答:3
正答:3
職場のストレスとともに始まり月経前に増悪する左顎関節痛に、胃のもたれ・胸やけ・嘔気。肝の疏泄失調が胃に及んだ肝胃不和。正答は3。
情志の関与を示す所見と、胃の上逆を示す所見が同時にあることを、ひとつの病証にまとめられるか。
職場のストレスとともに痛みが始まり、月経前に増悪するという経過は、肝の疏泄が失調していることを示す。肝は情志を調節し、月経とも深く関わるからである。一方、胃のもたれ感・胸やけ・嘔気は、胃気が下降せず上に逆流している所見。肝の疏泄が失調すると横に胃を犯し(肝気犯胃)、胃の和降が失われる。これが肝胃不和で、情志の要因と胃の上逆症状が同時に現れるのが特徴になる。顎関節の部位は足陽明胃経が下顎をめぐり、足少陽胆経が側頭から下顎枝の周囲を走るので、肝胆と胃の失調が痛みとして現れうる。
肝鬱気滞と肝胃不和の境目でつまずきやすい。分かれ目は、症状が肝の範囲にとどまるか、胃に及んでいるか。胸やけ・嘔気・もたれのように上に逆流する症状が出ていれば肝胃不和。逆に、下痢や腹痛など下に向かう症状であれば肝脾不和(肝気乗脾)となる。上に出るか下に出るかで臓腑が分かれる。
顎関節症は開口障害、関節雑音、疼痛を主症状とし、精神的緊張による咀嚼筋の過緊張、噛みしめ、歯ぎしり、かみ合わせが関与する。西洋医学的には咬筋・側頭筋・外側翼突筋の緊張が対象で、頬車・下関・翳風・完骨などの局所穴と、合谷・外関などの遠隔穴を用いる。東洋医学的には本例のように肝と胃の失調として捉え、疏肝和胃を治法とする。月経前に増悪する痛みは、肝の関与を示す手がかりとして広く使える。
肝の病証を段階違いで2つ、胃の病証を性質違いで2つ並べる。解法は、(1) 情志・月経との関連から肝の関与を確認、(2) 症状が上に逆流しているか下に向かうかで臓腑を決める、(3) 舌脈や熱・湿の所見の有無で虚実を確認する。
ストレスとともに始まり月経前に増悪するのは肝の疏泄失調。胃のもたれ・胸やけ・嘔気は胃気の上逆。肝が胃を犯した肝胃不和にあたる。肝鬱気滞は胃症状を伴わない段階、胃熱は消穀善飢と熱の所見、脾胃湿熱は黄膩苔と身重で、いずれも本例と合わない。