次の文を読み、問いに答えよ。Aさん(72歳、男性)は、妻と2人暮らしで子どもはいない。定年後は2人で旅行するのが趣味であった。Aさんは、1か月前から残尿感や夜間頻尿が気になり病院を受診した結果、前立腺癌〈prostatecancer〉と診断され根治的前立腺摘出手術を受けた。退院後は、手術後の補助療法として、外来で放射線の外照射療法を行うことになっている。
A さんが放射線治療を終了して半年後、腰部と右大腿部の痛みが出現した。倦 怠感と食欲不振が続いたため病院を受診し精密検査を受けた。骨転移していること が分かり、A さんと妻に主治医から余命と治療方針の説明があった。A さんはそ の場で「痛みを取り除いてほしい。つらい治療は受けたくない」と訴え、3日後に緩 和ケア病棟に入院した。 入院翌日、受け持ちの看護師B が、プリセプターである看護師に「今朝、奥さん の顔色が悪くふらついていたので声をかけると『夫の最期を受け入れられない気が して不安です』と打ち明けられました。昨夜も眠らずにA さんに付き添っていたよ うでした。奥さんにどう対応したらよいのでしょうか」と相談した。 プリセプターである看護師が看護師B に助言する内容で適切なのはどれか。
公式正答:2
解説
緩和ケア病棟に入院した患者の妻が「夫の最期を受け入れられない気がして不安」と語り、眠らずに付き添っている状況について、プリセプターが看護師Bに助言する内容を問う。妻がAさんへの思いを看護師Bに語る時間をつくることである。
この問題で問われていること
予期悲嘆にある家族に、何を提供するかを判断できるか。
しくみから理解する
予期悲嘆とは、大切な人の死が近いことを知ってから、実際の死の前に始まる悲しみの過程を指す。不安、否認、怒り、罪責感、そして身体の不調(不眠、食欲不振、疲労)として現れる。この妻は、受け入れられない気持ちを言葉にし、眠らずに付き添い、顔色が悪くふらついている。悲嘆の過程にあると同時に、身体的にも消耗している状態になる。この段階で必要なのは、気持ちを整理させることでも、事実を再説明することでもなく、思いを言葉にできる場と時間を用意することになる。語ることそのものが、感情を整理し、現実を受け止めていく助けになる。また、語られた内容から、妻が何を心配し、何を望んでいるかが分かり、次の支援につながる。
選択肢ごとの確認
「妻を励ますこと」は、悲嘆にある人への対応として適切でない。「がんばって」「しっかりして」といった励ましは、悲しむことを許されないという感覚を与え、感情を抑え込ませる。悲嘆は取り除くものではなく、共にいて支えるものになる。
「予後について再度主治医から説明するよう調整する」ことは、この場面の問題と合わない。妻は説明を理解していないのではなく、理解したうえで受け入れられずにいる。情報の不足ではなく、感情の問題であり、再説明は「もう一度突きつける」ことになりかねない。ただし、妻が病状について具体的な疑問を述べた場合には、医師との面談を調整することが適切な対応になる。
「受け入れられるまで夜も付き添うよう伝える」ことは、妻の消耗を深める。既に昨夜も眠らずに付き添い、顔色が悪くふらついている。付き添いたいという気持ちは尊重しつつ、休息を取れるよう働きかけることが必要になる。交代で付き添う、病棟の休憩できる場所を案内する、看護師が見守っているので安心して休んでほしいと伝える、といった具体的な提案が支援になる。
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混同しやすいポイント
誤肢は、励まし、情報の再提供、そして無理を続けさせること、になっている。共通するのは、妻の気持ちを聞かずに何かを与えようとする点になる。終末期の家族への支援では、まず語ってもらうことが出発点になる。この設問は、新人看護師への助言という形をとっているが、問われているのは家族ケアの原則そのものになる。
理解を深める
終末期における家族への支援は、いくつかの側面から成る。感情の表出=思いを語れる場と時間をつくる、聞き手として否定も評価もせずにいる、沈黙を恐れない。情報=病状と見通し、これから起こりうる変化、そして最期の過ごし方の選択肢を、家族が受け止められるペースで伝える。ケアへの参加=口腔ケア、清拭、手を握る、好きだった音楽をかけるなど、家族ができることを一緒に行う。これは無力感を和らげ、後の悲嘆にも良い影響を与える。家族自身の健康=睡眠、食事、休息を確保できるよう働きかける。付き添いの家族は、自分のことを後回しにしがちであり、看護師から具体的に声をかける必要がある。実務の支援=面会の環境、仕事や他の家族の世話との調整、経済的な相談窓口。そして死別後=遺族へのケア(グリーフケア)まで含めて考える。看護師B自身への助言という点では、新人が家族の言葉を受け止めきれずに不安を感じるのは自然であり、その相談ができたこと自体が適切な行動になる。プリセプターは、具体的な行動を示すとともに、一人で抱えずチームで関わることも伝える。妻の消耗が続く場合は、医師や心理職、緩和ケアチームとの連携も検討する。
間違えやすい考え方
『適切な助言』を問う型で、誤肢が励まし・情報の再提供・無理の継続である。まず語ってもらうという原則で切る。
5分で振り返る
①予期悲嘆=死が近いことを知ってから、死の前に始まる悲しみの過程。不安、否認、怒り、罪責感、不眠や食欲不振。②必要なのは、思いを言葉にできる場と時間。語ることが感情の整理と現実の受け止めを助ける。③励ましは悲しむことを許されない感覚を与える。④理解していないのではなく受け入れられないのだから、再説明は答えにならない。⑤付き添う気持ちを尊重しつつ休息を取れるよう働きかける。⑥ケアへの参加は無力感を和らげ、死別後の悲嘆にも良い影響を与える。⑦死別後の遺族へのケアまで含めて考える。
1分チェック
- 予期悲嘆にある家族には。→ 思いを語る時間をつくる(励まさない、説明を重ねない)。
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