次の文を読み、問いに答えよ。Aさん(30歳、男性)は統合失調症schizophreniaで内服治療をしていた。最近、部屋にこもり、精神科受診以外は外出しなくなった。ある日、母親がAさんの部屋で大量の薬を見つけ、確認すると「薬は飲みたくない」と話した。受診に付き添った母親は「Aは昼間に寝ていて、夜に窓を開けて、隣の家に向かって『悪口を言うな』『監視するな』と大声で怒鳴る」と主治医に話した。Aさんと母親の強い希望があり、精神科病棟に入院することになり、薬物療法が開始された。入院3日、夜間の巡視のたびにAさんは起きていて「隣の人が自分を監視している」「皆が悪口を言っている」と小さな声で看護師に話した。日中はホールで眠そうにしていることもあり、レクリエーションには「疲れた」と言って参加しない。他の患者と話すことはあるがトラブルはない。歯磨きや身だしなみは、声をかけると行う。
入院1か月、A さんは夜間、眠れるようになり、妄想や幻聴の症状が軽減した。 看護師がA さんに薬を自己中断した理由を尋ねたところ「いろいろとストレスが溜 まると何もしたくなくなり、薬を飲むことも面倒でした。今回の入院で飲み続けた ら嫌な症状もなくなってきました。薬は飲んだほうがよいですね。これからはスト レスを感じても乗り越えていけそうです」と話した。 A さんの考えに当てはまる概念はどれか。
公式正答:2
解説
入院1か月、症状が軽減し「ストレスが溜まると薬を飲むのも面倒だった。飲み続けたら症状もなくなってきた。薬は飲んだほうがよい。これからはストレスを感じても乗り越えていけそうです」と話した患者の考えに当てはまる概念を問う。レジリエンスである。
この問題で問われていること
回復に関わる概念を、意味の違いで区別できるか。
しくみから理解する
レジリエンスは、困難やストレスに直面しても、それに適応し、回復していく力を指す。もともとは物理学で、力を加えられて変形した物が元に戻る性質を表す語だった。この患者は、ストレスによって服薬を中断し症状が悪化したという経験を経て、その経験から学び、「ストレスを感じても乗り越えていけそうです」と、今後への見通しと自信を語っている。困難を経験したうえで、それに対処していけるという感覚が生まれており、レジリエンスの表れといえる。レジリエンスは生まれつきの資質だけでなく、経験と支援によって育つものと考えられている。
選択肢ごとの確認
カタルシスは、抑圧されていた感情を言葉や行動で表出することで、心の緊張が解放される現象を指す。浄化とも訳される。この患者は感情を吐き出しているのではなく、経験から学んだ見通しを語っており、該当しない。
コンコーダンスは、服薬について、医療者と患者が対等な立場で話し合い、合意して決めるという考え方である。患者の価値観と生活を尊重し、共に決めることに重点がある。この患者の語りは、自分の内的な力についてのものであり、医療者との合意形成の話ではない。
コンプライアンスは、患者が医療者の指示に従うことを指す。従うかどうかという一方向の関係を前提とした語であり、現在は、患者が主体的に治療に参加するという意味のアドヒアランス、さらに共に決めるコンコーダンスへと考え方が移っている。この患者は指示に従うと言っているのではなく、自分で必要性を理解して選び取っている。
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混同しやすいポイント
服薬に関する3つの概念を、関係のあり方で並べると理解しやすい。コンプライアンス=指示に従う(医療者が決め、患者が従う)。アドヒアランス=患者が主体的に治療に参加する。コンコーダンス=医療者と患者が対等に話し合って合意する。この事例の語りは、服薬の必要性を自分で理解した点ではアドヒアランスに近いが、設問が問うているのは「Aさんの考え」全体であり、ストレスを乗り越えていけるという見通しが中心にある。したがってレジリエンスが答えになる。
理解を深める
レジリエンスを支える要因としては、自己効力感、問題解決の技能、感情の調整、楽観性、そして人とのつながり(支えてくれる人の存在)が挙げられる。看護としては、本人の強みと、これまで困難を乗り越えてきた経験に注目し、それを言葉にして返すことが有効になる。この事例では、患者自身が経験から学び取ったことを語っており、それを受け止め、具体的にどう対処するかを一緒に考える段階に進める。退院に向けては、ストレスを感じたときの兆候(睡眠の変化、被害的な受け取り、服薬が面倒になる)を本人と共有し、そのときにどうするか(相談する、受診する、休む)を決めておくクライシスプランの作成が有効である。服薬の継続については、面倒だと感じたときの工夫(一包化、服薬カレンダー、決まった時刻の習慣化、持続性注射剤の検討)を具体的に相談する。精神症状の再燃は服薬の中断が最も多い契機であり、この事例の経験は、本人にとっても支援者にとっても重要な情報になる。
間違えやすい考え方
概念を問う型で、誤肢が感情の表出と服薬に関する2つの概念である。何について語っているかで切る。
5分で振り返る
①レジリエンス=困難やストレスに適応し回復していく力。経験と支援で育つ。②カタルシス=抑圧された感情の表出による緊張の解放。③コンプライアンス=指示に従う、アドヒアランス=主体的な参加、コンコーダンス=対等な合意。④支える要因は自己効力感・問題解決の技能・感情の調整・つながり。⑤兆候と対処を決めておくクライシスプランが有効。⑥服薬の中断は再燃の最も多い契機。
1分チェック
- 困難を経験しても適応し回復していく力は。→ レジリエンス。
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