次の文を読み、問いに答えよ。Aさん(30歳、男性)は統合失調症schizophreniaで内服治療をしていた。最近、部屋にこもり、精神科受診以外は外出しなくなった。ある日、母親がAさんの部屋で大量の薬を見つけ、確認すると「薬は飲みたくない」と話した。受診に付き添った母親は「Aは昼間に寝ていて、夜に窓を開けて、隣の家に向かって『悪口を言うな』『監視するな』と大声で怒鳴る」と主治医に話した。Aさんと母親の強い希望があり、精神科病棟に入院することになり、薬物療法が開始された。入院3日、夜間の巡視のたびにAさんは起きていて「隣の人が自分を監視している」「皆が悪口を言っている」と小さな声で看護師に話した。日中はホールで眠そうにしていることもあり、レクリエーションには「疲れた」と言って参加しない。他の患者と話すことはあるがトラブルはない。歯磨きや身だしなみは、声をかけると行う。
入院14 日、A さんは他の患者や看護師と話をする機会が増えた。「B 看護師に私 の悪口を言うのをやめるように言ってほしい」と訴え、受け持ち看護師が話を聞い ていると興奮して声が大きくなることがあった。 受け持ち看護師のA さんへの対応で適切なのはどれか。
公式正答:4
解説
入院14日、「B看護師に私の悪口を言うのをやめるように言ってほしい」と訴え、話を聞いていると興奮して声が大きくなる患者への対応を問う。「悪口を言われるとAさんはどんな気持ちになりますか」である。
この問題で問われていること
妄想の内容に立ち入らず、感情に焦点を当てる原則を実践できるか。
しくみから理解する
妄想への関わりの原則は、内容を肯定も否定もせず、その体験に伴う感情に焦点を当てることである。妄想は、本人にとっては疑いようのない現実であり、否定されれば理解されないと感じて関係が損なわれる。一方で肯定すれば妄想を強めることになる。「悪口を言われるとどんな気持ちになりますか」という問いは、内容の真偽に触れずに、本人の体験している苦痛(つらさ、怖さ、腹立たしさ)に近づく。感情を言葉にできると、興奮が和らぎ、対処の方法を一緒に考える段階へ進める。
選択肢ごとの確認
「悪口を言うのはB看護師ですか」という問いは、妄想の内容に踏み込んで詳細を確認するものになる。内容を掘り下げると、妄想が体系化して強まることがあり、また看護師が妄想を事実として扱っていると受け取られうる。
「悪いことは考えないほうがいい」という言葉は、本人の体験を否定し、考えないようにと指示するものである。妄想は意思で止められるものではなく、この助言は実行不可能であるうえ、理解されていないという体験を残す。
「B看護師は悪口を言っていません」という否定は、本人の確信と真っ向から対立する。妄想は説得や証拠によって修正されないため、議論になり、興奮を強め、看護師への不信につながる。
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混同しやすいポイント
誤肢は、内容を掘り下げる、否定する、思考を止めさせる、という3つの誤った方向で構成されている。共通するのは、妄想の内容そのものを扱っている点である。正答だけが、内容から離れて感情に向かっている。この構図を知っていれば、選択肢の性質で判別できる。
理解を深める
妄想のある患者との関わりでは、いくつかの原則がある。内容を肯定も否定もしない。本人の感情と体験に関心を向ける。事実と異なると考えることは、必要な場面では「私にはそうは見えませんが、あなたにはそう感じられるのですね」と、自分の認識として穏やかに伝える(対立にしない)。安心できる環境と、予測できる日課を整える。信頼できる関係を積み重ねる。症状が軽減してきた時期には、本人が自分の体験を振り返り、対処の方法(人に相談する、その場を離れる、服薬を続ける)を見つけられるよう支援する。この事例では入院14日で交流が増えており、回復の過程にある。同時に、対人関係が増えることで刺激も増え、被害的な受け取りが生じやすい時期でもある。興奮が強まる場合は、静かな場所へ移動する、時間を区切る、複数のスタッフで対応するといった配慮を行う。B看護師との関係については、本人の訴えを記録してチームで共有し、B看護師個人が責められる構図にしないことも、組織としての支援になる。
間違えやすい考え方
『適切な対応』を問う型で、誤肢がすべて妄想の内容を扱っている。内容ではなく感情に向かうもので切る。
5分で振り返る
①妄想は肯定も否定もしない。②内容ではなく、体験に伴う感情に焦点を当てる。③詳細を掘り下げると妄想が体系化しうる。④説得や証拠では修正されない、議論は不信を招く。⑤「考えないように」は実行不可能な助言。⑥必要なら「私にはそう見えませんが、あなたにはそう感じられるのですね」と自分の認識として穏やかに伝える。⑦興奮時は静かな場所、時間を区切る、複数で対応。
1分チェック
- 妄想を訴える患者にどう応じるか。→ 内容を肯定も否定もせず、その体験に伴う感情に焦点を当てる。
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