次の文で示す病証に対する治療方針として最も適切なのはどれか。「56歳の男性。職場の人間関係のストレスから不眠となり、動悸も感じている。最近は物忘れや腰下肢の重だるさ、歯のぐらつきもある。舌質は紅、脈は数を認める。」
正答:3
正答:3
ストレスによる不眠と動悸に、物忘れ・腰下肢の重だるさ・歯のぐらつきという腎虚が重なり、舌紅・脈数で熱がある。腎陰が心火を抑えられない状態なので、まず心火を除く。正答は3。
心と腎の両方の所見が混ざった症例で、治療方針を実の側へ向けられるか。虚の所見に引きずられないこと。
心は火、腎は水にあたり、腎水が上って心火を抑え、心火が下って腎水を温めることで平衡が保たれる(心腎相交)。腎陰が不足するとこの抑えが効かなくなり、心火が亢ぶって不眠・動悸・心煩が出る。これが心腎不交。本例は、物忘れ・腰下肢の重だるさ・歯のぐらつきという腎精・腎陰の不足を土台に、ストレスで不眠と動悸が生じ、舌質が紅く脈が数と熱の所見がそろっている。歯は骨の余りとされ腎に属するので、歯のぐらつきも腎虚を示す。治療方針としては、現に亢ぶっている心火を除くのが優先。肝血を補うのは目のかすみやこむら返りがあるとき、腎陽を補うのは冷えを伴う陽虚のときで、舌紅・脈数とは寒熱が逆。肝陽を降ろすのはめまい・頭痛・のぼせが主体の肝陽上亢のとき。
腎虚の所見(物忘れ・腰下肢・歯)が並ぶので腎を補う方へ流れやすいが、舌紅・脈数は熱を示しており、腎陽を補えば熱を助長する。虚実が混在するときは、現に現れている実(熱)を先に処理するか、虚を補いながら実を瀉すかを判断する。本問は選択肢に「心火を除く」があるのでそちらが答え。
心腎不交(心腎不交・水火不済)の症状:不眠、心煩、動悸、健忘、めまい、耳鳴、腰膝酸軟、五心煩熱、盗汗、遺精、舌紅少苔、脈細数。腎陰虚(虚熱)と心火亢盛(実熱)が同時に存在するのが特徴。治法は交通心腎で、滋腎陰と清心火を合わせる。用いる穴は心兪・腎兪・神門・太渓・照海・三陰交など。歯は骨の余りとされ、歯のぐらつきは腎精の不足を示す。
虚の所見と熱の所見を混ぜ、補法と瀉法の両方を選択肢に置く。解法は、(1) 虚の側がどの臓かを出す、(2) 熱の側がどの臓かを出す、(3) 舌脈で熱の有無を確認、(4) 現に亢ぶっている側へ向ける肢を選ぶ。
物忘れ・腰下肢の重だるさ・歯のぐらつきは腎の不足、不眠と動悸は心の症状で、舌紅・脈数が熱を示す。腎陰が心火を抑えられなくなった心腎不交で、方針は亢ぶっている心火を除くこと。腎陽を補うのは冷えがあるときで寒熱が逆、肝血を補うのは肝血虚、肝陽を降ろすのはめまい頭痛が主体のときで、いずれも合わない。