次の文で示す病証に対する治療方針として最も適切なのはどれか。「51歳の男性。主訴は動悸。特に食後に起こることが多い。胸悶、息切れを伴う。腹診では胃部振水音を認めた。」
正答:3
正答:3
食後に起こる動悸に胸悶・息切れが伴い、腹診で胃部振水音がある。水飲が胃に停滞して心を犯した状態なので、痰湿を除く。正答は3。
腹診所見(胃部振水音)を病理産物へ翻訳できるか。動悸を心の虚だけで考えないこと。
胃部振水音は、みぞおちのあたりを軽く叩くとちゃぷちゃぷと水の音がするもので、胃に水飲が停滞していることを示す。停滞した水飲は痰飲となり、上へ突き上げて胸を塞ぐと胸悶と息切れが出て、心を犯すと動悸になる。食後に起こりやすいのは、飲食が加わってさらに水飲が増えるため。したがって治療方針は痰湿を除くこと。血を補うのは心血虚で顔色が白く舌淡・脈細のとき、陰液を補うのは心陰虚で五心煩熱・盗汗・舌紅少苔のとき、瘀血を除くのは刺痛や舌の紫暗があるときで、いずれも本例の所見にない。
動悸というと心の虚(心気虚・心血虚・心陰虚)を思い浮かべやすいが、痰飲・瘀血・肝火など実の病機でも起こる。腹診の胃部振水音が実の病機(水飲)を名指ししており、食後に起こるという時間の情報も飲食との関連を示す。
動悸(心悸)の弁証:心気虚=動くと悪化、息切れ、自汗、脈弱。心血虚=顔色が白い、不眠、健忘、舌淡、脈細。心陰虚=五心煩熱、盗汗、舌紅少苔、脈細数。心陽虚=冷え、胸の冷痛、脈沈遅。痰飲=胸悶、めまい、悪心、舌苔白膩、脈滑、胃部振水音。瘀血=胸の刺痛、口唇の紫暗、舌の瘀点、脈濇または結代。腹診では、心下痞硬、胃部振水音、胸脇苦満、小腹不仁などが所見として用いられる。
主訴(動悸)から心の虚証へ誘導し、腹診で実の病機を示す。解法は、(1) 腹診・舌脈の所見を病理産物へ翻訳、(2) 症状が出る時間や誘因を確認、(3) 実か虚かを決めて治法の向きを合わせる。
胃部振水音は胃に水飲が停滞していることを示す腹診所見。停滞した水飲が痰飲となって胸を塞ぎ心を犯すと、動悸・胸悶・息切れが出る。食後に起こりやすいのも飲食で水飲が増えるため。方針は痰湿を除くこと。血を補う・陰液を補う・瘀血を除くはいずれも別の病機への治法。