次の症例で最も適切な臓腑病証はどれか。「75歳の男性。夜間の頻尿と咳で不眠が続いている。口が乾き、から咳がみられ、腰膝酸軟と盗汗を伴う。舌質は痩、脈は細を認める。」
正答:4
正答:4
から咳・口の乾き(肺陰虚)と、夜間頻尿・腰膝酸軟(腎虚)に、盗汗・舌痩・脈細という陰虚の所見がそろう。肺と腎の陰が同時に不足した肺腎陰虚。正答は4。
症候を肺(咳・口乾)と腎(頻尿・腰膝酸軟)に振り分け、虚実・寒熱・気血陰陽の性質(盗汗・舌痩・脈細=陰虚)から二臓の陰虚を同定できるか。
肺は陰液を好み乾燥を嫌う。肺陰が不足すると粛降が失われ、痰の少ない乾いた咳(から咳)、口や喉の乾きが出る。腎陰が不足すると腰膝酸軟・耳鳴・夜間頻尿(腎の固摂・気化の弱り)が出る。陰虚共通の所見として盗汗(寝汗)、五心煩熱、舌質が痩せて紅、舌苔少、脈細数がある。本例はから咳・口乾(肺)+夜間頻尿・腰膝酸軟(腎)+盗汗・舌痩・脈細(陰虚)で肺腎陰虚。肺腎は金水相生の母子関係で、久しい咳(肺陰虚)が腎に及ぶ、あるいは高齢で腎陰が衰え肺を潤せなくなる、という経路でしばしば同時に虚す。心腎不交なら不眠に心煩・動悸・舌尖紅が前面に出て咳は主ではない。心肝血虚は不眠・眩暈・目の乾き・顔色不良で咳や頻尿がない。肺脾気虚は咳に痰が多く、息切れ・食欲不振・軟便・倦怠感で、盗汗・舌痩ではなく自汗・舌淡胖。
不眠が主訴に見えるため心腎不交へ引かれるが、不眠の原因が「頻尿と咳」と書かれており、心火の症状(心煩・舌尖紅)がない。気虚と陰虚の鑑別は、汗(自汗=気虚/盗汗=陰虚)、舌(淡胖=気虚/紅痩=陰虚)、痰(多い=気虚・痰湿/少ない乾いた咳=陰虚)で行う。
高齢者は元陰・元陽がともに衰え、特に腎陰の不足から他臓の陰虚へ波及しやすい(肝腎陰虚・肺腎陰虚・心腎陰虚)。肺腎陰虚の治療は滋陰潤肺・補腎で、肺兪・腎兪・太渓・復溜・尺沢・三陰交などに補法。夜間頻尿は腎気不固・腎陰虚で起こり、太渓・気海・関元・腎兪を用いる。誤嚥性肺炎後の高齢者で腰痛・耳鳴・ほてり・寝汗が出た症例(第30回問99)は腎陰不足の類題。
不眠を冒頭に置いて心腎不交に誘導し、陰虚と気虚を並べて汗・舌・痰の所見で見分けさせる。解法は、(1) 症候を臓に振り分ける(咳・口乾=肺、頻尿・腰膝酸軟=腎)、(2) 盗汗・舌痩・脈細=陰虚、(3) 肺腎陰虚。
75歳男性のから咳・口乾は肺陰虚、夜間頻尿・腰膝酸軟は腎虚、盗汗・舌痩・脈細は陰虚の所見で、あわせて肺腎陰虚。心腎不交は心火亢盛の所見(心煩・舌尖紅)が要り、心肝血虚は血虚の像、肺脾気虚は痰多い咳・自汗・舌淡胖で区別する。不眠は頻尿と咳の結果であって、心腎不交の根拠にはしない。