次の文を読み、問いに答えよ。Aさん(43歳、女性)は夫と2人暮らし。身長150cm、体重98kg。既往歴はない。先日、庭で転倒し右腓骨を骨折し、膝関節から足関節までのギプス固定をしている。来週、プレート固定術を受けることになっており、本日は夫と一緒に術前オリエンテーションに来院した。来院時のAさんのバイタルサインは、体温36.8℃、呼吸数16/分、脈拍80/分、血圧138/80mmHgであった。夫によると「妻は、寝ているときはいつも大きないびきと、時々無呼吸があるので、慌てて起こしている」と言う。
手術後2日。A さんはバイタルサインも安定しているため、離床の準備を始め ることになった。 初回離床時に最も注意すべき訴えはどれか。
公式正答:1
解説
手術後2日、バイタルサインが安定して離床の準備を始める43歳女性について、初回離床時に最も注意すべき訴えを問う。「息苦しい」である。
この問題で問われていること
離床の際に起こりうる致死的な合併症を挙げられるか。
しくみから理解する
初回離床の際に最も警戒すべきは、肺血栓塞栓症になる。下肢の深部静脈にできた血栓が、体位の変換と歩行の開始により剥がれ、肺動脈を閉塞する。症状は、突然の呼吸困難、胸痛、頻呼吸、頻脈、そして冷汗と失神になる。この患者は、①下肢のギプス固定による不動、②肥満、③手術、④術後の臥床という危険因子が重なっており、危険が極めて高い。したがって、「息苦しい」という訴えは、直ちに離床を中止し、評価と対応を要する徴候になる。
選択肢ごとの確認
「腰が重い」は、長時間の臥床による筋の緊張と、体位によるもので、緊急性はない。
「痰が出る」も、術後の分泌物の増加によるもので、むしろ喀出できていることは望ましい。ただし、性状(膿性、血性)と量、そして発熱を伴う場合は、肺炎を疑う。
「傷口が引きつる」は、創部の疼痛と緊張によるもので、離床に伴ってしばしば生じる。鎮痛と、動き方の工夫(腹部の創であれば創部を手で支える)で対応する。
もっと詳しく読む
混同しやすいポイント
誤肢は、いずれも術後によくみられ、対応できる訴えになる。「息苦しい」だけが、生命に関わる合併症を示しうる。加えて、離床の際に注意すべきものとして、①起立性低血圧(めまい、ふらつき、目の前が暗くなる、悪心)、②疼痛、③創部の離開、④転倒、⑤ドレーンとルートの抜去、⑥出血、もある。初回の離床では、①血圧を臥位と座位で測る、②段階的に進める(ベッド上での挙上→端座位→立位→歩行)、③各段階で症状を確認する、④必ず付き添う、⑤無理をしない、という手順を踏む。
理解を深める
早期離床を整理する。意義=①呼吸器合併症(無気肺、肺炎)の予防、②深部静脈血栓症と肺血栓塞栓症の予防、③腸蠕動の回復(イレウスの予防)、④筋力の低下と関節の拘縮の予防、⑤褥瘡の予防、⑥せん妄の予防、⑦気分と意欲の回復、⑧回復の実感。手順=①医師の指示(安静度、荷重)を確認する、②鎮痛を先に行う(痛みがあると動けない。離床の30分前を目安に)、③ルートとドレーンを整理する、④バイタルサインを測る、⑤ベッドの頭側を挙上し、めまいの有無を確認する、⑥端座位になり、数分間そのまま様子をみる(血圧、めまい、悪心、冷汗)、⑦立位(介助者は患側または不安定な側に立つ)、⑧足踏み、⑨歩行、⑩各段階で中止の基準を確認する。中止の基準=①呼吸困難、②胸痛、③強いめまいとふらつき、④冷汗と顔面蒼白、⑤収縮期血圧の20mmHg以上の低下、⑥著しい頻脈と不整脈、⑦酸素飽和度の低下(90%未満)、⑧意識の変容、⑨強い疼痛。肺血栓塞栓症=①危険因子=手術、長期臥床、下肢の固定、悪性腫瘍、肥満、高齢、妊娠と産褥、経口避妊薬、脱水、心不全、そして既往と家族歴、②予防=早期離床、足関節の運動、弾性ストッキング、間欠的空気圧迫装置、そして危険度に応じた抗凝固薬、③症状=突然の呼吸困難、胸痛、頻呼吸、頻脈、冷汗、失神、そしてショック、④対応=直ちに離床を中止し、安静にして酸素を投与し、応援を呼び、医師へ報告する。加えて、体動により血栓がさらに飛ぶ可能性があるため、動かさない、⑤検査=Dダイマー、造影コンピュータ断層撮影、心エコー、⑥治療=抗凝固療法、血栓溶解療法、そして重症例ではカテーテル治療と外科的血栓摘除。
間違えやすい考え方
訴えの緊急性を問う型で、誤肢が術後によくみられ対応できるものである。致死的な合併症で切る。
5分で振り返る
①初回離床で最も警戒すべきは肺血栓塞栓症。下肢の深部静脈の血栓が、体位変換と歩行で剥がれ、肺動脈を閉塞する。②症状=突然の呼吸困難、胸痛、頻呼吸、頻脈、冷汗、失神。③この患者は、ギプス固定による不動、肥満、手術、術後の臥床という危険因子が重なる。④「腰が重い」「痰が出る」「傷口が引きつる」は、術後によくみられ対応できる訴え。⑤離床の手順=鎮痛を先に→ルートの整理→バイタルサイン→頭側挙上→端座位で数分→立位→足踏み→歩行。各段階で症状を確認する。⑥中止の基準=呼吸困難、胸痛、強いめまい、冷汗、収縮期血圧の20mmHg以上の低下、著しい頻脈と不整脈、酸素飽和度90%未満。⑦肺血栓塞栓症を疑ったら、直ちに中止し安静にし、酸素を投与して医師へ報告する。動かさない。
1分チェック
- 初回離床時の「息苦しい」は。→ 肺血栓塞栓症を疑い、直ちに中止する。
この問題に対応する教材の確認中です。