次の文を読み、問いに答えよ。Aさん(92歳、女性)は、脳梗塞〈cerebralinfarction〉の後遺症のため要介護4で、2年前から特別養護老人ホームに入所している。入所時は、日常生活は全介助で、話しかけるとうなずいたり首を振るなど自分の意思を伝えることができた。Aさんは歌が好きで、歌に関するレクリエーションには車椅子で参加し、笑顔がみられていた。家族は週1回、面会に来ていた。入所時に、Aさんは「延命処置を望まない」、家族は「できるだけ長生きしてほしい」と言っていた。最近、ほとんど食事を摂らなくなり、閉眼していることが多く、看護師や施設職員の声かけに対する反応が徐々に鈍くなってきた。家族が面会時に声をかけると、目を開け、うなずくなどの意思表示がある。Aさんの状態から、医師と相談し看護師は看取りの準備が必要であると判断した。
3日後、A さんは声かけに全く反応しなくなったため、看護師は死期が迫って いると判断した。 看護師が観察するA さんの状態はどれか。
公式正答:4
解説
声かけに全く反応しなくなり、死期が迫っていると判断された患者について、看護師が観察する状態を問う。下顎呼吸の出現である。
この問題で問われていること
臨死期に現れる身体の変化を挙げられるか。
しくみから理解する
下顎呼吸は、死の直前に現れる呼吸の型になる。下顎を上下に動かし、口をあえぐように開閉する呼吸で、換気としてはほとんど有効でない。延髄の呼吸中枢の機能が失われていく過程で生じ、これが現れてから死亡までは、多くの場合、数時間以内とされる。家族には、①苦しんでいるように見えるが、本人に苦痛の自覚はないと考えられていること、②これは死が近いことを示す変化であること、を、あらかじめ、または現れた時点で伝える。
選択肢ごとの確認
尿量は増加せず、減少する。腎血流の低下と、水分摂取の減少により、尿はほとんど作られなくなる。
流涎の増加も、死期が迫った徴候ではない。臨死期には、分泌物を飲み込めなくなり、咽頭に貯留してゴロゴロという音(死前喘鳴)が生じることがある。これは分泌の増加というより、排出できないことによる。
下痢便の出現も、死期が迫った徴候ではない。腸の蠕動も低下し、便は出なくなることが多い。ただし、死亡の前後に、括約筋の弛緩により便と尿が排出されることはある。
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混同しやすいポイント
臨死期の徴候を、系統ごとに整理する。①呼吸=不規則、無呼吸、チェーン・ストークス呼吸、下顎呼吸、死前喘鳴、②循環=血圧の低下、脈が触れにくく速くなる、四肢の冷感、チアノーゼ、皮膚の斑状の変色、③意識=傾眠から昏睡へ、④尿=減少し、ほとんど出なくなる、⑤消化=摂取しなくなる、腸の蠕動が低下する、⑥皮膚=蒼白、冷感、乾燥、⑦顔貌=眼が落ちくぼみ、鼻が尖り、顎が下がる。誤肢は、いずれも実際とは逆の方向になる。
理解を深める
臨死期の看護を整理する。死前喘鳴=①機序=唾液と気道の分泌物を、嚥下と喀出により排出できず、咽頭に貯留する。呼吸に伴って音が生じる。②本人の苦痛=意識が低下しているため、本人が苦しんでいる可能性は低いと考えられている。③家族の苦痛=「溺れているように見える」「かわいそう」と、強い苦痛を感じる。したがって、説明が重要になる。④対応=体位(側臥位、または顔を横に向ける)、口腔内の分泌物をやさしく拭き取る、輸液の減量、そして必要に応じて抗コリン薬。深部の吸引は、苦痛を与えるわりに効果が乏しいため、慎重に判断する。下顎呼吸=現れてから死亡までは短い。家族が離れている場合は、連絡の判断をする。家族への説明の要点=①これから起こる変化を、あらかじめ、分かりやすい言葉で伝える(「呼吸の仕方が変わります」「手足が冷たくなります」「反応がなくなっていきます」)、②それらが苦痛を意味するものではないことを伝える、③そばにいてよい、話しかけてよいと伝える、④聴覚は最後まで保たれるとされることを伝える、⑤いつでも呼んでよいと伝える、⑥食事と水分を摂らなくなることは自然な経過であり、無理に摂らせることがかえって苦痛になることを説明する(家族は「何も食べさせないのはかわいそう」と感じることが多く、この説明は繰り返し必要になる)。死亡の確認=医師が行う。看護師は、その前後で家族の心情に配慮し、お別れの時間を確保する。エンゼルケア=身体を清め、整え、その人らしい姿にする。家族が望めば一緒に行う。この時間が、家族にとって最初の悲嘆の作業になることがある。死別後の支援=グリーフケア。
間違えやすい考え方
徴候を問う型で、誤肢がすべて実際と逆方向である。臨死期の変化を系統ごとに照合して切る。
5分で振り返る
①下顎呼吸は、下顎を上下に動かし口をあえぐように開閉する呼吸で、換気としてはほとんど有効でない。延髄の呼吸中枢の機能が失われる過程で生じ、現れてから死亡まで多くは数時間以内。②家族には、苦しんでいるように見えるが本人に苦痛の自覚はないと考えられること、死が近い変化であることを伝える。③尿量は減少し、ほとんど出なくなる。④死前喘鳴は、分泌物を排出できず咽頭に貯留することによる。分泌の増加ではない。⑤腸の蠕動も低下し、便は出なくなることが多い。⑥臨死期の変化=呼吸(不規則、無呼吸、下顎呼吸、死前喘鳴)、循環(血圧低下、四肢冷感、チアノーゼ、斑状の変色)、意識(傾眠から昏睡)、尿量の減少。⑦死前喘鳴への対応=体位、口腔内をやさしく拭き取る、輸液の減量。深部の吸引は苦痛のわりに効果が乏しい。
1分チェック
- 死期が迫った徴候は。→ 下顎呼吸(現れてから死亡まで多くは数時間以内)。
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