次の文を読み、問いに答えよ。Aさん(78歳、男性)は、妻(70歳)と2人暮らしである。脳血管障害後遺症による右片麻痺があり、車椅子への移乗は部分介助、要介護2である。排泄はポータブルトイレを利用している。Aさんと妻はなるべく家で過ごしたいと考え、自宅での介護はすべて妻が行っている。長女(会社員)が県内に在住しているがAさんの介護はしていない。訪問看護を週1回利用するのみで、他のサービスは利用していない。最近、妻の腰痛が悪化し、妻から訪問看護師に「主治医から介護の負担を軽減するように言われました。でも夫は家から出たくないし、私も夫をどこかに預けるのは不安です。どうしたらよいでしょうか」と相談があった。
A さんは入院したが、状態が安定し入院後3日で退院することが決まった。長 女が「父が退院したら、母の腰痛が心配なので、私が父のポータブルトイレへの移 動を手伝いたいと思います。介助の方法を教えてください」と訪問看護師に相談が あった。 訪問看護師が長女に指導するベッドからポータブルトイレへの移乗の介助方法で 正しいのはどれか。
公式正答:2
解説
右片麻痺のある78歳男性について、ベッドからポータブルトイレへの移乗の介助方法を問う。ベッドから立ち上がる際は前傾姿勢になってもらうことである。
この問題で問われていること
立ち上がりの動作の力学を説明できるか。
しくみから理解する
座位から立ち上がるには、重心を、殿部から足底へ移す必要がある。そのために、①足を手前に引く(足関節が膝より後ろになる位置まで)、②体幹を前傾させて、頭部を前方かつ下方へ移動させる、③その勢いで殿部が浮く、という一連の動作を行う。前傾しないまま立ち上がろうとすると、重心が後方に残り、上へ引き上げる大きな力が必要になる。介助者は、この前傾を促し、重心の移動を助けることで、持ち上げずに立ち上がりを介助できる。
選択肢ごとの確認
ポータブルトイレを麻痺側に設置することは誤りになる。移乗は健側へ向かって行う。この患者は右片麻痺なので、健側は左になる。ポータブルトイレは左側(健側)に置き、健側の手でつかまり、健側の下肢で体重を支えて回旋する。麻痺側に置けば、麻痺側の足に体重をかけて回ることになり、転倒する。
健側に立って介助することも適切でない。介助者は患側(麻痺側)に立つ。理由は、①患側の膝折れを支えられる、②患側へ倒れるのを防げる、③患側の上肢を保護できる、になる。健側に立つと、患側が支えられず、そちらへ崩れる。
向きを変えるときにズボンのウエスト部分を持つことも適切でない。①会陰部が圧迫され、疼痛と皮膚の損傷を招く、②衣服が破れて転倒する、③重心が上に偏りかえって不安定になる。腰部と骨盤を支えるか、移乗用のベルトを用いる。
もっと詳しく読む
混同しやすいポイント
移乗の原則を、そのまま覚える。①健側へ移乗する、②移乗先は健側に置き、ベッドとの角度は20〜30度、③ブレーキをかけ、フットレストを上げる(車椅子の場合)、④ベッドの高さは移乗先よりわずかに高く、⑤浅く座り直し、足を引き、前傾して立つ、⑥介助者は患側に立ち、膝を支える、⑦引き上げず、重心の移動を助ける、⑧本人ができる動作は本人が行う。誤肢は、①移乗先の位置、②介助者の位置、③持ち方を、それぞれ誤っている。
理解を深める
移乗と移動の援助を整理する。立ち上がりの介助=①環境(滑らない床、履物、周囲の整理、手すり、ベッドの高さ)、②準備(説明、体位、浅く座り直す、足を引く、足底を床につける)、③介助者の位置(患側。膝を支える。または前方から向かい合い、膝で本人の膝を支える)、④声かけ(「1、2、3で立ちますよ」と、動作の始まりを合わせる)、⑤前傾を促す(「おじぎをするように」「お辞儀してから立ちましょう」)、⑥重心の移動を助ける(持ち上げない)、⑦立位の安定を確認してから次へ進む、⑧起立性低血圧に注意する(ふらつき、めまい、顔色)。介助者の身体を守る=①ベッドの高さを調整する、②本人に近づく、③足を前後または左右に開いて支持基底面を広くする、④膝を曲げて重心を低くする、⑤持ち上げず、水平に滑らせる、または重心の移動を利用する、⑥ひねらない(足の向きを変える)、⑦福祉用具を使う(スライディングボード、スライディングシート、移乗用ベルト、リフト)、⑧一人で無理をしない。福祉用具=介護保険の貸与と購入の対象になるものを把握し、介護支援専門員と福祉用具専門相談員に相談する。ポータブルトイレの設置=①健側に、②ベッドとの高さを合わせ、③安定した場所に、④手すりまたはつかまるものの近くに、⑤動線を短く、⑥臭気と音への配慮(消臭、蓋、そして排泄物の処理の方法)、⑦夜間の照明、⑧本人の羞恥への配慮(カーテン、家族の関わり方)。排泄の援助は、その人の尊厳に直結するため、方法だけでなく、どう感じているかにも目を向ける。
間違えやすい考え方
介助方法を問う型で、誤肢が位置と持ち方を誤る。健側へ移乗し、患側に立つという原則で切る。
5分で振り返る
①立ち上がりは、足を引き、体幹を前傾させて重心を殿部から足底へ移すことで行う。前傾しないと、上へ引き上げる大きな力が必要になる。②介助者は、この前傾を促し、重心の移動を助ける。持ち上げない。③移乗は健側へ向かって行う。右片麻痺なら、ポータブルトイレは左(健側)に置く。④介助者は患側に立つ。患側の膝折れを支え、患側へ倒れるのを防ぐため。⑤ズボンのウエストを持つと、会陰部の圧迫、衣服の破損、重心の偏りを招く。腰部と骨盤を支えるか移乗用ベルトを用いる。⑥介助者の身体を守る=ベッドの高さの調整、本人に近づく、足を開く、膝を曲げる、持ち上げず滑らせる、ひねらない、福祉用具を使う。⑦起立性低血圧に注意する。⑧排泄の援助は尊厳に直結する。羞恥への配慮を忘れない。
1分チェック
- 立ち上がりの介助では。→ 前傾姿勢を促す(移乗先は健側、介助者は患側)。
この問題に対応する教材の確認中です。