次の文を読み、問いに答えよ。Aさん(32歳、男性)は、仕事上のストレスを抱えていた際に知人から誘われ、覚せい剤を常用するようになり逮捕された。保釈後、薬物依存症の治療を受けることができる精神科病院に入院し、治療プログラムに参加することになった。
入院2週後、A さんは病棟生活のルールを守ることができず、それを注意した 看護師に対して攻撃的になることがあった。別の看護師がA さんに理由を尋ねる と「指図するような話し方をされると、暴力的だった父親を思い出し、冷静でいら れなくなる」と話した。 このときA さんに起こっているのはどれか。
公式正答:1
解説
「指図するような話し方をされると、暴力的だった父親を思い出し、冷静でいられなくなる」と話す患者に起こっているものを問う。転移である。
この問題で問われていること
治療関係で生じる感情の動きを、用語で言えるか。
しくみから理解する
転移は、患者が、過去の重要な人物(多くは親)に対して抱いていた感情を、無意識のうちに治療者へ向けることを指す。この患者は、看護師の話し方をきっかけに、父親に対して抱いていた恐怖と怒りを、目の前の看護師へ向けている。これが転移になる。①陽性転移(好意、依存、理想化)と、②陰性転移(怒り、不信、敵意)があり、この事例は後者になる。
選択肢ごとの確認
逆転移は、治療者の側が、患者に対して、自分の過去の関係にもとづく感情を向けることを指す。方向が逆になる。例=患者に自分の家族を重ねる、特定の患者に強い苛立ちまたは過度の思い入れを抱く、など。
躁的防衛は、抑うつと喪失に耐えられないとき、それを打ち消すように、万能感、活動性の亢進、そして軽躁的な言動を示す防衛のあり方になる。
反動形成は、受け入れがたい感情を、正反対の態度と行動によって覆い隠す防衛機制になる。例=憎しみを抱く相手に、過度に丁寧に接する。
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混同しやすいポイント
転移と逆転移を、方向で区別する。①転移=患者から治療者へ、②逆転移=治療者から患者へ。誤肢のうち、②が方向を逆にしたもの、③④は防衛機制になる。加えて、転移は、①精神分析の文脈で生まれた概念だが、②日常の看護の場面でも生じており、③それに気づくことが、関係の理解に役立つ。
理解を深める
治療関係を整理する。転移=①陽性転移(好意、信頼、依存、理想化。治療への協力につながる一方、過度になると依存と、期待に応えられなかったときの失望を招く)、②陰性転移(怒り、不信、敵意、拒否。関係が壊れる危険がある一方、その背景にある過去の体験を理解する手がかりにもなる)。いずれも、①患者の問題ではなく、②関係の中で生じる自然な現象として捉える。逆転移=治療者の側に生じる感情。①「この患者が嫌だ」「この患者だけ気になる」「この患者のためなら特別なことをしたい」といった形で現れる、②自分の過去の関係、価値観、そして疲労が影響する、③気づかずにいると、ア)特定の患者を避ける、イ)過度に関わる、ウ)判断が偏る、エ)境界を越える(個人的な連絡、贈り物、私生活の共有)、という形で治療に影響する、④したがって、自分の感情に気づき、言葉にし、同僚と共有し、必要ならスーパービジョンを受けることが重要になる。この「自分の感情を扱う」ことは、精神看護における中核の技術になる。境界(バウンダリー)=治療関係と私的な関係の境目。①個人的な連絡先を交換しない、②贈り物を受け取らない、③自分の私生活を過度に話さない、④特定の患者を特別扱いしない、⑤身体的な接触に配慮する、⑥勤務時間外に関わらない。これらは、①患者を守り、②看護師自身を守り、③治療関係を保つために必要になる。この事例での対応=①その場で対立しない、②本人の言葉を受け止める(「そう感じられたのですね」)、③話し方を振り返る(実際に指図するような言い方になっていた可能性もある。相手の受け取り方だけの問題としない)、④背景にある体験を理解する、⑤チームで共有し、関わり方を統一する、⑥本人が、自分の反応のパターンに気づけるよう支える(これが治療の一部になる)。
間違えやすい考え方
用語を問う型で、誤肢が方向の逆と防衛機制である。患者から治療者へという方向で切る。
5分で振り返る
①転移は、患者が過去の重要な人物(多くは親)への感情を、無意識のうちに治療者へ向けること。②この患者は、看護師の話し方をきっかけに、父親への恐怖と怒りを看護師へ向けている(陰性転移)。③陽性転移(好意、依存、理想化)と陰性転移(怒り、不信、敵意)がある。④逆転移は、治療者の側が患者へ向ける感情。方向が逆。⑤躁的防衛は、抑うつと喪失を打ち消すように万能感と活動性の亢進を示すもの。⑥反動形成は、受け入れがたい感情を正反対の態度で覆い隠す防衛機制。⑦逆転移に気づかずにいると、特定の患者を避ける、過度に関わる、判断が偏る、境界を越える、という形で治療に影響する。⑧自分の感情に気づき、言葉にし、同僚と共有することが、精神看護の中核の技術になる。⑨相手の受け取り方だけの問題とせず、自分の話し方も振り返る。
1分チェック
- 患者が過去の人物への感情を治療者へ向けるのは。→ 転移(逆は逆転移)。
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