次の文を読み、問いに答えよ。Aさん(35歳、男性)は1人暮らし。両親は他県に住んでいる。30歳のときに双極性障害〈bipolardisorder〉と診断され、これまでに4回の入退院を繰り返している。給料をインターネットゲームの利用料金で度々使い果たし、それが原因で両親と何度も口論になったことがある。仕事では同僚とトラブルを起こすたびに転職を繰り返しており、今回も同僚と口論になり自ら退職した。Aさんは「前の職場の同僚に嫌がらせをしてやる」と母親に電話をかけ、心配した両親が一緒に精神科病院を受診した。診察室では多弁で大きな声を出し、椅子を蹴るなどの行為がみられた。医師の診察の結果、入院して治療することになった。
入院後1週、身体的拘束は解除された。A さんは常に動き回り、他の患者への 過干渉が続いている。食事中に立ち上がりホールから出ていこうとするため、看護 師が止めると強い口調で言い返してくる。A さんは「ゲーム関連の仕事を探した い。早く退院させろ」と1日に何度も看護師に訴えるが、主治医は退院を許可して いない。 A さんへの対応で適切なのはどれか。
公式正答:1
解説
拘束解除後、常に動き回り、他の患者への過干渉が続き、食事中に立ち上がり、止めると強い口調で言い返し、1日に何度も退院を訴える患者への対応を問う。休息できる場所へ誘導することである。
この問題で問われていること
躁状態にある人に、いま何が必要かを判断できるか。
しくみから理解する
躁状態では、①活動性が亢進し、②本人は疲労を自覚しないまま動き続け、③その結果、消耗、脱水、そして睡眠の不足が進む。加えて、④刺激が多い環境では、さらに興奮が高まる。したがって、必要なのは、①刺激を減らし、②休息をとれる環境を用意することになる。具体的には、静かな個室または刺激の少ない場所へ誘導し、①照明を落とし、②関わる人を少なくし、③短く簡潔に伝える。この段階では、話し合いや理解を求める関わりは成立しない。まず身体を守ることが優先される。
選択肢ごとの確認
過干渉となる理由を確認することは、この時期には適切でない。①躁状態では、内省が困難であり、②理由を問われても答えられず、③かえって刺激になる。加えて、④過干渉は症状であり、理由の有無の問題ではない。
退院後は家族と暮らすように提案することも適切でない。①退院の見通しが立っていない段階であり、②本人の意向を確認していない、③両親は他県に住んでおり、これまで口論を繰り返してきた経緯がある、④住まいの決定は、状態が落ち着いてから、本人を中心に検討する。
仕事に必要なスキルについて話し合うことも適切でない。①躁状態では、現実的な計画を立てることが困難であり、②壮大な計画を語ることは症状の一部になる、③この段階で話し合えば、実現困難な計画を強化してしまう。就労の話は、状態が落ち着いてから行う。
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混同しやすいポイント
誤肢は、①内省を求める、②将来の生活を決める、③計画を話し合う、の3つになる。いずれも、状態が落ち着いてから行うべきものになる。躁状態の看護の原則は、①刺激を減らす、②休息と睡眠を確保する、③身体を守る(水分、栄養、消耗)、④短く簡潔に伝える、⑤議論しない、⑥限界を明確に、しかし穏やかに示す、⑦本人の尊厳を守る(症状による言動を、人格の問題としない)、になる。
理解を深める
双極性障害の躁状態を整理する。症状=①気分の高揚と易怒性(機嫌がよいとは限らない。むしろ、些細なことで怒る)、②観念奔逸(考えが次々に浮かび、話が飛ぶ)、③多弁と大声、④活動性の亢進(じっとしていられない、次々に物事を始める)、⑤睡眠欲求の減少(眠らなくても平気だと感じる。これが最も早く現れる徴候の一つになる)、⑥誇大的な考え(自分は特別だ、大きな事業ができる)、⑦判断力の低下(浪費、無謀な投資、性的な逸脱、そして衝動的な決断)、⑧注意の転導性、⑨他者への干渉と、対人的な境界の逸脱。身体の危険=①消耗と脱水(動き続け、食べず、飲まない)、②睡眠の不足、③外傷、④体重の減少。これらにより、身体的に危険な状態に至ることがある。看護=①環境=刺激を減らす(個室、照明、音、人の出入り、そして持ち物の制限)、②身体=水分、栄養(片手で食べられる高カロリーのもの、飲み物を手元に置く)、睡眠、体重、バイタルサイン、③関わり=ア)短く、簡潔に、一度に一つ、イ)議論しない、説得しない、ウ)穏やかに、しかし一貫した対応、エ)限界を示す(できることとできないことを、明確に、短く)、オ)担当を固定し、対応を統一する(人により対応が違うと、混乱と操作的な言動を招く)、カ)症状による言動を、後で本人が知って傷つかないよう配慮する、④他の患者への影響=過干渉と刺激から、他の患者を守る、⑤薬物療法=気分安定薬(炭酸リチウム、バルプロ酸、カルバマゼピン)と抗精神病薬。炭酸リチウムでは、血中濃度の測定と、中毒(振戦、消化器症状、意識障害、痙攣)の観察、そして脱水と塩分の制限による血中濃度の上昇に注意する、⑥回復期=躁状態が去った後、抑うつへ転じることがある。加えて、躁状態のときの言動を思い出して、強い自責と羞恥を抱く。この時期の自殺の危険に注意する、⑦再発の予防=睡眠のリズム、服薬の継続、そして早期の徴候(眠らなくても平気になる、買い物が増える、話が止まらない)を、本人と家族が知っておく。
間違えやすい考え方
対応を問う型で、誤肢が内省・将来・計画を求めるものである。いま身体を守ることで切る。
5分で振り返る
①躁状態では、活動性が亢進し、本人は疲労を自覚しないまま動き続け、消耗、脱水、睡眠の不足が進む。②必要なのは、刺激を減らし、休息をとれる環境を用意すること。③静かな場所へ誘導し、照明を落とし、関わる人を少なくし、短く簡潔に伝える。④躁状態では内省が困難で、理由を問うことはかえって刺激になる。⑤住まいと就労の話は、状態が落ち着いてから、本人を中心に検討する。⑥この段階で計画を話し合えば、実現困難な計画を強化する。⑦睡眠欲求の減少が、最も早く現れる徴候の一つ。⑧関わり=短く、議論せず、一貫して、限界を明確に。担当を固定し対応を統一する。⑨躁状態の後に抑うつへ転じ、強い自責から自殺の危険が高まる時期がある。
1分チェック
- 躁状態で動き続けるなら。→ 休息できる場所へ誘導する(刺激を減らす)。
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