次の文を読み、問いに答えよ。Aさん(70歳、女性)は1人暮らし。夫とは1年前に死別した。近くの診療所で高血圧症〈hypertension〉と心不全〈heart failure〉と診断され、内服治療をしていた。月1回は診療所で内服薬の処方と食事指導や体重測定などの生活指導を受けていたが、時々薬を飲んだことを忘れてしまうことがあった。日常生活は自立しており、認知機能は問題ない。週2日、事務職のパートとして働いており、電車を使って通勤していた。息子(42歳)と娘(37歳)は仕事のため遠方に住んでいる。1か月前からAさんは家事や外出するときに軽い息切れを感じるようになり、2、3日前からは咳と痰が出るようになった。両足のむくみが出てきたため、診療所から自宅近くの病院を紹介され外来受診した。身体所見:意識は清明。身長159cm、体重61.3kg。体温37.1℃、呼吸数21/分、脈拍95/分、不整、血圧164/96mmHg、経皮的動脈血酸素飽和度〈SpO2〉92%(room air)。両下肢に軽度の浮腫を認めた。
診察の結果、A さんは心不全〈heart failure〉の 悪化を認めたため入院することになり、個室を希望した。入院後、酸素マスクによる酸素療法や利尿薬による薬物療法、塩分制限 などの食事療法が開始された。入院3日、夜勤の看護師から日勤の看護師への朝の 申し送りで、昨晩のA さんは夜間全く眠っていないこと、「ここはどこですか」と 繰り返し尋ねてきたこと、娘が学校から帰ってくるのを待っていると言って病室の 入り口を気にしていたことが報告された。日勤の看護師は、A さんの睡眠状況を 改善する必要があると考え、A さんへの対応について検討した。 看護師のA さんへの対応で適切なのはどれか。
公式正答:2
解説
入院3日、夜間に全く眠らず、場所が分からず、娘が学校から帰ってくるのを待っているという、過去の時期を現在として述べる時間の見当識障害がみられる70歳女性への対応を問う。日中眠っていたら覚醒を促すことである。
この問題で問われていること
睡眠と覚醒のリズムを整えるという方向で対応を選べるか。
しくみから理解する
この患者は、急性に発症した見当識の障害と、睡眠・覚醒のリズムの乱れを示しており、せん妄と考えられる。対応の基本は、①直接の原因を取り除く(心不全の治療、酸素化、脱水と電解質の補正、疼痛と便秘の解消、薬剤の見直し)、②誘発する要因を減らす(環境の調整、リズムの回復)、③薬は最後、になる。日中に眠っていれば覚醒を促し、活動を増やすことは、睡眠と覚醒のリズムを整える最も基本的な方法になる。活動の量は、自覚症状と循環動態への耐容に応じて進める。加えて、日中の光を浴びること、離床、そして会話が、見当識の回復にも役立つ。
選択肢ごとの確認
終日、病室を明るくすることは適切でない。夜間まで明るいままでは、リズムがさらに乱れ、睡眠を妨げる。日中は明るく、夜間は暗く、という日内の差をつけることが必要になる。
睡眠導入薬の使用を相談することは、この時点では優先されない。とくにベンゾジアゼピン系は、せん妄を悪化させ、転倒とふらつきのリスクも高めるため、高齢者では原則として避ける。非薬物的な対応を先に行い、それでも危険がある場合に、抗精神病薬などを検討する。
夜間に覚醒しているときに「眠るよう説得する」ことも適切でない。せん妄では、説得が理解されにくく、また抵抗と興奮を招く。否定も議論もせず、落ち着いた声で、いまがいつでどこかを繰り返し伝え、安心できる関わりをする。
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混同しやすいポイント
誤肢は、リズムを乱すもの、薬に頼るもの、そして説得しようとするものになる。せん妄への対応は、「原因を取り除く」「リズムと環境を整える」「薬は最後」という順序で考える。日中の覚醒を促すことは、この2番目に当たり、最も基本的な方法になる。活動の量は、自覚症状と循環動態への耐容に応じて進める。
理解を深める
入院高齢者のせん妄の予防と対応を整理する。この事例で確認できている所見=心不全による低酸素(酸素飽和度92%)と、感染を疑わせる体温37.1℃・咳・痰。白血球やC反応性蛋白の値は示されていない。評価を要する寄与因子=利尿薬による脱水と電解質の異常(検査値で確認する)。誘発因子=環境の変化(入院、個室)。個室は、プライバシーが保たれる一方、刺激が乏しく、人との接触も減るため、せん妄のリスクを高める面もある。対応=①原因の治療(心不全、感染)、②水分出納と電解質の管理、③酸素化の維持、④疼痛と便秘の解消、⑤薬剤の見直し、⑥日中の離床と活動(自覚症状と循環動態への耐容に応じて進める)、⑦夜間の環境(暗く、静かに。処置と巡回を最小限に)、⑧見当識の手がかり(時計、カレンダー、日中の採光、家族の写真)、⑨眼鏡と補聴器の使用、⑩家族の面会と、慣れた物を身近に置くこと、⑪日課の維持、⑫落ち着いた声での短い説明の繰り返し。家族への説明=「認知症になった」「性格が変わった」と受け取られやすいため、一時的な状態であり、原因が治れば多くの場合は戻ることを伝える。ただし遷延することや一部が残ることもあるため、経過をみていく必要があることも併せて伝える。家族の存在そのものがせん妄を和らげるため、面会を促す。予防=高齢者が入院した時点でリスクを評価し、上記の対応を最初から行う。せん妄は、起こってから対応するより、起こさないことが重要になる。せん妄を起こした患者は、入院期間が延び、機能の低下と施設への入所、そして死亡のリスクも高まることが知られている。
間違えやすい考え方
対応を問う型で、誤肢がリズムを乱す・薬に頼る・説得するものである。原因の除去とリズムの回復で切る。
5分で振り返る
①急性の見当識障害と睡眠・覚醒のリズムの乱れはせん妄を示す。②対応の順序=直接因子を取り除く→誘発因子を減らす→薬は最後。③日中の覚醒と活動は、リズムを整え、見当識の回復にも役立つ。活動の量は自覚症状と循環動態への耐容に応じて進める。④終日明るくすると日内の差がなくなり、リズムがさらに乱れる。日中は明るく、夜間は暗く。⑤ベンゾジアゼピン系はせん妄を悪化させ、転倒のリスクも高める。高齢者では原則として避ける。⑥説得は理解されにくく、抵抗と興奮を招く。否定も議論もせず、いまがいつでどこかを繰り返し伝える。⑦この事例で確認できている所見=低酸素と、感染を疑わせる発熱・咳・痰。評価を要する寄与因子=利尿薬による脱水と電解質異常(検査値で確認する)。誘発因子=環境の変化。
1分チェック
- せん妄への対応は。→ 日中眠っていたら覚醒を促す(リズムを整える)。
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