ヒト免疫不全ウイルス〈HIV〉感染症〈human immunodeficiency virus infection〉で正しいのはどれか。
公式正答:2
解説
ヒト免疫不全ウイルス感染症について正しいものを問う。無症候期がある、である。
この問題で問われていること
このウイルスの性質と、感染後の経過を説明できるか。
しくみから理解する
感染の経過は、①急性期(感染から2〜6週間後。発熱、咽頭痛、リンパ節腫脹、発疹など、かぜに似た症状が現れ、数週間で自然に軽快する。この時期に感染に気づかれないことが多い)、②無症候期(数年から10年程度。急性期の後、ウイルス量は個人ごとの水準〈セットポイント〉まで下がっていったん比較的安定するが、複製そのものは続いており、CD4陽性Tリンパ球が徐々に減っていく。経過が進むとウイルス量は再び上昇する)、③後天性免疫不全症候群の発症期(免疫が低下し、日和見感染症と悪性腫瘍が現れる)、という3期をたどる。この無症候期の存在が、感染の拡大と、診断の遅れの背景になる。
選択肢ごとの確認
空気感染はしない。感染経路は、①性的接触、②血液を介するもの(注射器の共用、輸血=現在の日本では検査により極めてまれ、針刺し事故)、③母子感染(妊娠中、分娩時、母乳)の3つになる。日常生活での接触、握手、食器の共用、咳、くしゃみ、入浴、そして蚊による媒介では感染しない。この理解は、感染者への差別と偏見をなくすうえで重要になる。
デオキシリボ核酸ウイルスではない。リボ核酸を遺伝子として持つウイルスで、逆転写酵素により自らの遺伝情報をデオキシリボ核酸へ写し取り、宿主の遺伝子へ組み込む。この性質のため、レトロウイルスに分類される。組み込まれると排除が難しく、治療は生涯にわたる。
Bリンパ球ではなく、CD4陽性Tリンパ球(ヘルパーT細胞)に感染する。この細胞は、免疫の司令塔として、他の免疫細胞を活性化する役割を担うため、これが減ることで細胞性免疫と液性免疫の双方が損なわれる。CD4陽性細胞数は、免疫の状態を示す指標として治療の判断に用いられる。
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混同しやすいポイント
誤肢は、①感染経路、②ウイルスの種類、③標的の細胞という、基本的な3点を誤っている。押さえるべきは、「リボ核酸ウイルス」「CD4陽性Tリンパ球に感染」「性的接触・血液・母子感染の3経路」「無症候期が長い」の4点になる。空気感染しないことは、感染対策と、社会的な理解の両面で重要になる。
理解を深める
この感染症を整理する。診断=スクリーニング検査(抗原抗体検査)で陽性なら、確認検査(免疫クロマトグラフィー法、核酸増幅検査)を行う。急性期には抗体がまだできていないことがあるため(ウィンドウ期)、疑わしい場合は核酸増幅検査を用いる。指標となる疾患=ニューモシスチス肺炎、カンジダ症(食道)、サイトメガロウイルス感染症、結核、非結核性抗酸菌症、クリプトコッカス髄膜炎、トキソプラズマ脳症、進行性多巣性白質脳症、カポジ肉腫、悪性リンパ腫、浸潤性子宮頸がん、そして消耗性症候群など。これらのいずれかを発症すると、後天性免疫不全症候群と診断される。治療=抗レトロウイルス療法。複数の薬剤を組み合わせて用いる。現在は、診断され次第、CD4陽性細胞数にかかわらず速やかに開始することが標準になっている。継続すれば、血中のウイルス量を検出できない水準まで抑えられ、免疫も回復し、生命予後は感染していない人と大きく変わらない。加えて、ウイルス量が検出限界未満に保たれていれば、性的接触による他者への感染は起こらないとされている。看護=①服薬の継続の支援(飲み忘れは耐性を生むため、確実な継続が要となる)、②副作用への対応、③定期的な受診と検査、④日和見感染の予防、⑤心理的な支援(診断時の衝撃、将来への不安、抑うつ)、⑥社会的な支援(就労、経済、身体障害者手帳の対象になりうる、自立支援医療)、⑦誰に伝えるかという難しい判断への支援、⑧守秘の徹底(本人の同意なく他者へ伝えない。院内でも必要最小限にとどめる)、⑨予防(標準予防策で足りる。特別な隔離は不要)、⑩偏見と差別への対応。針刺し事故=直ちに流水で洗い、報告し、曝露後予防の内服を可能な限り速やかに(できれば2時間以内に)開始するかを判断する。
間違えやすい考え方
疾患の正誤を問う型で、誤肢が感染経路・ウイルスの種類・標的細胞を誤る。基本の4点で切る。
5分で振り返る
①経過=急性期(2〜6週後にかぜ様の症状)、無症候期(数年〜10年)、後天性免疫不全症候群の発症期。②長い無症候期が、感染の拡大と診断の遅れの背景になる。③感染経路=性的接触、血液(注射器の共用、針刺し)、母子感染の3つ。空気感染も日常の接触による感染もしない。④リボ核酸ウイルスで、逆転写酵素により宿主の遺伝子へ組み込まれる(レトロウイルス)。⑤標的はCD4陽性Tリンパ球(ヘルパーT細胞)。免疫の司令塔が失われる。⑥治療は抗レトロウイルス療法。診断され次第、速やかに開始する。継続すれば生命予後は感染していない人と大きく変わらない。⑦ウイルス量が検出限界未満なら性的接触による感染は起こらない。⑧特別な隔離は不要で、標準予防策で足りる。
1分チェック
- この感染症の経過は。→ 急性期、無症候期(数年〜10年)、発症期。
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