次の文を読み、問いに答えよ。Aさん(50歳、男性、会社員)は半年ほど前から労作時に胸痛と呼吸困難感があり、狭心症〈anginapectoris〉と診断され内服治療を受けている。本日明け方から胸部に圧迫感があった。出勤途中に強い胸痛を自覚し、自ら救急車を要請した。救急外来到着時のバイタルサインは、体温35.8℃、呼吸数30/分、脈拍112/分、血圧96/52mmHg、経皮的動脈血酸素飽和度〈SpO2〉93%(酸素2L/分)。意識は清明。12誘導心電図はV1〜V4でST上昇、Ⅱ、Ⅲ、aVFでST低下がみられた。
救急外来到着時にA さんの状態をアセスメントするために優先度が高い血液検 査項目はどれか。
公式正答:1
解説
強い胸痛で救急搬送され、心電図でV1〜V4のST上昇がみられる50歳男性について、優先度が高い血液検査項目を問う。トロポニンTである。
この問題で問われていること
心筋の傷害を最も鋭敏に示す指標を知っているか。
しくみから理解する
トロポニンは、心筋の収縮を調節するタンパク質で、心筋が傷害されると血中へ放出される。心筋に特異性が高く、微量の傷害でも検出できるため、心筋梗塞の診断において最も有用な指標になる。発症から3〜4時間で上昇し始め(高感度の測定法ではさらに早く検出できる)、12〜24時間で最高となり、1〜2週間持続する。診断の基準においても、心筋トロポニンの上昇と下降が中心に置かれている。加えて、簡便な迅速検査が可能で、救急の現場で速やかに結果を得られる。
選択肢ごとの確認
乳酸脱水素酵素は、多くの臓器の細胞に含まれるため、心筋への特異性が低い。上昇の開始も遅く(発症から12〜24時間)、診断の初期には役立たない。かつては経過を追う指標として用いられた。
血清クレアチニンは、腎機能の指標になる。心筋梗塞の診断には直接用いない。ただし、造影剤を用いる心臓カテーテル検査を行う前に、腎機能を把握しておくことは重要になる(造影剤腎症の危険を評価する)。
アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼは、肝、心筋、骨格筋などに広く含まれる酵素で、特異性が低い。上昇の開始は発症から6〜12時間になる。
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混同しやすいポイント
心筋の傷害を示す指標を、①特異性、②上昇の時期、で整理する。①トロポニン=特異性が最も高く、3〜4時間で上昇、1〜2週間持続。②心筋型クレアチンキナーゼ=特異性が高く、4〜8時間で上昇、2〜3日で正常化。再梗塞の判定に有用。③ミオグロビン=最も早く(1〜2時間)上昇するが、特異性が低い。④アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ=6〜12時間。⑤乳酸脱水素酵素=12〜24時間。誤肢は、いずれも特異性が低いか、心臓とは無関係の指標になる。
理解を深める
急性冠症候群を整理する。定義=冠動脈の粥腫の破綻と、それに伴う血栓の形成により、心筋への血流が急に減少または途絶する病態。不安定狭心症、非ST上昇型心筋梗塞、ST上昇型心筋梗塞を含む。症状=①胸痛(締めつけられる、押しつぶされる、圧迫感。20分以上持続し、安静とニトログリセリンで軽快しない)、②放散痛(左肩、左上肢、頸部、下顎、心窩部、背部)、③冷汗、悪心、嘔吐、④呼吸困難、⑤不安と死の恐怖。高齢者と糖尿病のある人では、胸痛がなく、息切れ、意識の低下、食欲不振として現れることがある(無痛性心筋梗塞)。心電図=①ST上昇(貫壁性の虚血。この事例ではV1〜V4の上昇で、前壁中隔の梗塞を示す。左前下行枝の閉塞が疑われる)、②対側性変化(この事例のⅡ、Ⅲ、aVFのST低下)、③異常Q波(壊死)、④冠性T波。部位と誘導の対応=Ⅱ、Ⅲ、aVF=下壁(右冠動脈)、V1〜V4=前壁中隔(左前下行枝)、Ⅰ、aVL、V5、V6=側壁(左回旋枝)。治療=①再灌流療法(経皮的冠動脈形成術が第一選択。発症から治療までの時間が予後を左右する)、②抗血小板薬、抗凝固薬、③硝酸薬、ベータ遮断薬、アンジオテンシン変換酵素阻害薬、スタチン、④酸素(低酸素がある場合)、⑤鎮痛(モルヒネ)。合併症=不整脈(心室細動は発症直後に多く、突然死の原因になる)、心不全、心原性ショック、心破裂、乳頭筋断裂、心室中隔穿孔、心膜炎。看護=①モニターの装着と不整脈の監視、②静脈路の確保、③疼痛の緩和、④安静と酸素、⑤不安への対応、⑥迅速な検査と治療への準備、⑦家族への説明、⑧治療後の観察と、心臓リハビリテーション、⑨再発予防の教育。
間違えやすい考え方
検査項目の優先度を問う型で、誤肢が特異性の低い酵素と腎機能の指標である。心筋への特異性と上昇の時期で切る。
5分で振り返る
①トロポニンは心筋の収縮を調節するタンパク質で、心筋の傷害により血中へ放出される。特異性が最も高い。②発症から3〜4時間で上昇し、12〜24時間で最高、1〜2週間持続する。③心筋型クレアチンキナーゼは4〜8時間で上昇し2〜3日で正常化。再梗塞の判定に有用。④ミオグロビンは1〜2時間で最も早く上昇するが特異性が低い。⑤アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼは6〜12時間、乳酸脱水素酵素は12〜24時間で、いずれも特異性が低い。⑥血清クレアチニンは腎機能の指標。造影剤を用いる検査の前には確認する。⑦誘導と部位=Ⅱ・Ⅲ・aVF=下壁、V1〜V4=前壁中隔、Ⅰ・aVL・V5・V6=側壁。⑧発症直後は心室細動による突然死の危険が高い。
1分チェック
- 心筋梗塞で優先する血液検査は。→ トロポニン(特異性が最も高い)。
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