次の文を読み、問いに答えよ。Aさん(83歳、男性)は妻(81歳)と2人暮らし。息子夫婦は共働きで同市内に住んでいる。Aさんは自宅の廊下で倒れているところを妻に発見され、救急搬送された。Aさんは右上下肢に力が入らず、妻の声かけにうなずくが発語はなかった。頭部CTで左中大脳動脈領域の脳梗塞〈cerebralinfarction〉と診断されたため救急外来で血栓溶解療法が行われ、入院となった。血栓溶解療法による治療後2週。Aさんは右上下肢麻痺、失語などの後遺症があるが、自宅への退院を希望したため、機能訓練の目的で回復期リハビリテーション病棟に転棟した。転棟後1日。Aさんはベッドから車椅子への移乗動作の訓練を始めたが、健側の下肢筋力が低下しているため、立位のときにバランスを崩しやすい状況である。
A さんへの移乗時の援助で適切なのはどれか。2つ選べ。
公式正答:4・5
解説
右上下肢麻痺があり、健側の下肢筋力も低下してバランスを崩しやすい患者への移乗時の援助を2つ問う。車椅子を左側に準備すること、移乗前に血圧測定を行うことである。
この問題で問われていること
移乗の原則と、離床に伴う危険を両方押さえているか。
しくみから理解する
移乗は健側へ向かって行う。この患者は右麻痺なので健側は左であり、車椅子を左側に置くことで、健側の手で車椅子の遠い側の肘掛けをつかみ、健側の下肢で体重を支えながら回旋できる。加えて、この患者は血栓溶解療法後2週で、長期の臥床から離床を始めた段階にあり、起立性低血圧を起こしやすい。転倒は骨折とその後の機能低下に直結するため、移乗の前に血圧を測定し、めまいとふらつきの有無を確認することが必要になる。
選択肢ごとの確認
ズボンのウエスト部分をつかんで引き上げることは適切でない。①会陰部が圧迫され、疼痛と皮膚の損傷を招く、②衣類が破れて転倒する、③重心が上に偏り、かえって不安定になる、という問題がある。介助では、腰部と骨盤を支える、または移乗用のベルトを用いる。
ベッドの高さを車椅子の座面より低くすることは適切でない。逆に、ベッドを車椅子の座面よりわずかに高くすることで、重力を利用して移動しやすくなる。加えて、ベッドに座った際に足底が床につき、膝が約90度に曲がる高さが、立ち上がりの基本になる。
床に離床センサーマットを設置することは、この場面の移乗の援助ではない。センサーは、一人で起き上がろうとする際の察知に用いるもので、看護師が付き添って行う移乗の安全には寄与しない。加えて、この患者は自宅への退院を目指して訓練を行っている段階であり、行動を監視する方向より、安全に動ける方法を身につける方向が優先される。
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混同しやすいポイント
移乗の原則を整理する。①健側へ移乗する、②車椅子は健側に置き、ベッドとの角度は20〜30度、③ブレーキをかけ、フットレストを上げる、④ベッドの高さは車椅子の座面よりわずかに高く、⑤浅く座り直し、足を引き、前傾して立つ、⑥介助者は患側に立ち、膝を支える、⑦引き上げず、重心の移動を助ける、⑧本人ができる動作は本人が行う。誤肢は、①持ち方、②高さ、③手段の取り違えという3点になる。
理解を深める
脳血管疾患後のリハビリテーション看護を整理する。回復期リハビリテーション病棟=発症から一定期間内に入棟し、集中的なリハビリテーションにより、日常生活動作の向上と在宅復帰を目指す病棟。多職種(医師、看護師、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士、管理栄養士、医療ソーシャルワーカー、薬剤師)が協働する。看護師の役割=訓練室で獲得した能力を、病棟の生活の中で実際に使えるようにすること(生活の場での実践)。訓練で歩けても、病棟でトイレへ行けなければ意味がない。観察と評価=①麻痺の程度、筋力、関節の可動域、②バランスと座位・立位の保持、③日常生活動作(機能的自立度評価法など)、④嚥下、⑤高次脳機能(失語、失行、失認、半側空間無視、注意障害、記憶障害、遂行機能障害、社会的行動障害)、⑥排泄、⑦意欲と気分(脳卒中後のうつは頻度が高い)、⑧疼痛(肩の亜脱臼、肩手症候群、視床痛)、⑨痙縮と拘縮。合併症の予防=①転倒、②誤嚥性肺炎、③深部静脈血栓症、④褥瘡、⑤関節の拘縮、⑥廃用症候群、⑦再発(血圧、脂質、血糖、心房細動の管理と、服薬の継続)。退院支援=①自宅の環境の評価と改修(手すり、段差、トイレ、浴室)、②福祉用具、③介護保険と障害福祉サービス、④家族への介護指導、⑤外泊訓練、⑥退院前の家屋訪問と、多職種によるカンファレンス、⑦通所と訪問のリハビリテーションの継続、⑧再発時の対応と連絡先。本人と家族が、退院後の生活を具体的に思い描けるようにすることが、支援の要点になる。
間違えやすい考え方
援助を問う型で、誤肢が持ち方・高さ・手段を誤る。健側へ移乗するという原則と、離床の危険で切る。
5分で振り返る
①移乗は健側へ向かって行う。右麻痺なら車椅子を左に置く。②ベッドとの角度は20〜30度、ブレーキをかけ、フットレストを上げる。③長期臥床からの離床では起立性低血圧を起こしやすい。移乗の前に血圧を測り、めまいとふらつきを確認する。④ズボンのウエストをつかんで引き上げると、会陰部の圧迫、衣類の破損、重心の偏りを招く。腰部と骨盤を支えるか移乗用ベルトを用いる。⑤ベッドは車椅子の座面よりわずかに高くする。座って足底が床につき膝が約90度になる高さが基本。⑥介助者は患側に立ち、膝を支える。引き上げず重心の移動を助ける。⑦離床センサーは、一人で起き上がる際の察知に用いるもので、付き添う移乗の安全には寄与しない。
1分チェック
- 右麻痺の移乗は。→ 車椅子を左(健側)に、移乗の前に血圧を測る。
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