次の文を読み、問いに答えよ。Aさん(81歳、女性)は夫(86歳)と2人で暮らしている。高血圧症〈hypertension〉で内服治療をしているが、血圧のコントロールはできている。両眼に老人性白内障senilecataractがあり、老人性難聴presbyacusisのために補聴器を使用している。認知機能は問題なく、日常生活動作〈ADL〉はほぼ自立している。1年前から両眼の羞明、霧視が強くなり、視力が低下して趣味の編み物ができなくなってきた。また、家の中を移動するときに小さな段差につまずいたりドアにぶつかるなど、歩行時の転倒の危険性が増えた。Aさんは自宅での生活を安全に送りたい、趣味を続けたいという希望があり、10日間程度の入院で両眼の超音波水晶体乳化吸引術と眼内レンズ挿入術を行うことになった。
入院当日、病棟の看護師がA さんに対してパンフレットを用いて手術前オリエ ンテーションを行うことになった。 A さんへのオリエンテーションの方法で適切なのはどれか。
公式正答:4
解説
老人性白内障と老人性難聴があり補聴器を使用している81歳女性への、手術前オリエンテーションの方法を問う。手術後の注意点はパンフレットに赤色の太い文字で書くことである。
この問題で問われていること
加齢による視覚と聴覚の変化に応じた工夫を選べるか。
しくみから理解する
加齢により、水晶体が黄色く濁るため、コントラストの識別が落ち、細い文字や小さい文字が読みにくくなる。太い文字にすることで、輪郭が明瞭になり読みやすくなる。また、色の識別では、短波長側(青、緑、紫)の区別が難しくなる一方、長波長側(赤、橙、黄)は比較的保たれる。したがって、赤色の太い文字は、高齢者にとって視認しやすい組み合わせになる。加えて、文字の大きさを大きくする、行間を空ける、余白をとる、そして重要な点を絞ることも有効になる。
選択肢ごとの確認
耳元で大きな声で説明することは適切でない。補聴器を使用している場合、大きな声は音が割れて、かえって聞き取りにくくなる。また、耳元で話されることは不快感を与え、尊厳を損なう。正面から、口元が見えるように、普通よりやや低い声で、はっきりと、ゆっくり話すことが基本になる。
身体に触れてから話しかけることも、この場面では適さない。視力が低下していても、この患者は日常生活動作がほぼ自立しており、聴覚も補聴器で補われている。突然触れられることは驚きと不快を招く。まず正面から近づき、名乗って声をかけ、そのうえで必要であれば触れる。
窓際の明るい場所でパンフレットを見せることも適切でない。白内障では、水晶体の濁りにより光が散乱するため、まぶしさ(羞明)が強くなる。この患者も羞明を訴えている。直射日光の当たる窓際は、まぶしくて見えにくくなる。明るさは必要だが、直接光ではなく、均一で柔らかい照明の下が適する。
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混同しやすいポイント
誤肢は、聴覚(大声)、接触(触れる)、そして照明(窓際)という3点で、いずれも「よかれと思って」行われがちな対応になっている。加齢による感覚の変化を正確に知らないと、かえって不快や困難を与えることになる。白内障=まぶしさに弱い、難聴=大声ではなく明瞭さ、という2点がこの設問の核心になる。
理解を深める
高齢者とのコミュニケーションの工夫を整理する。視覚=十分だがまぶしくない明るさ(間接照明、カーテンで直射日光を和らげる)、大きく太い文字、コントラストの高い配色(白地に黒または赤)、青と緑の区別に頼らない、眼鏡の使用と清潔の確認、そして段差や物の位置を言葉で伝える。聴覚=正面から、口元を見せて、普通よりやや低い声で、はっきり、ゆっくり、短い文で。一度で伝わらなければ言い方を変える(同じ言葉を繰り返すより効果的なことがある)。静かな環境を選ぶ。補聴器の装着と電池を確認する。筆談も併用する。認知=一度に多くを伝えない、要点を絞る、繰り返す、書いたものを渡す、そして本人の言葉で確認してもらう。態度=急がせない、待つ、本人に向かって話す(家族にだけ説明しない)、敬意を保つ。白内障の手術は、多くの場合、視力と生活の質を大きく改善する。この患者のように、趣味の再開と転倒の予防という目的が明確であれば、術後の見え方の変化についても具体的に説明でき、意欲につながる。ただし、眼内レンズの度数によっては、これまでと見え方が変わるため、術後の眼鏡の調整と、段差の感じ方の変化にも注意を促す。
間違えやすい考え方
方法を問う型で、誤肢がよかれと思って行われがちな対応である。まぶしさに弱い・大声より明瞭さで切る。
5分で振り返る
①加齢で水晶体が黄色く濁り、コントラストの識別が落ちる。太い文字が読みやすい。②色は短波長側(青・緑・紫)の識別が難しく、長波長側(赤・橙・黄)は比較的保たれる。③白内障では光が散乱して羞明が強くなるため、窓際の直射日光は避け、均一で柔らかい照明の下で見せる。④補聴器の使用者に大きな声で話すと音が割れて聞き取りにくい。正面から、口元を見せ、やや低い声で、はっきりゆっくり話す。⑤突然身体に触れることは驚きと不快を招く。まず名乗って声をかける。⑥一度に多くを伝えず、要点を絞り、書いたものを渡す。⑦本人に向かって話し、家族にだけ説明しない。
1分チェック
- 白内障と難聴のある高齢者への資料は。→ 赤色の太い文字(コントラストが高く見やすい)。
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