次の文を読み、問いに答えよ。Aさん(20歳、女性)は境界性人格〈パーソナリティ〉障害borderlinepersonalitydisorderの診断を受け、精神科外来に通院中である。ある日、人間関係のトラブルから処方されていた睡眠薬を過量服薬して自殺企図をしたところを家族に発見され、救命救急センターに搬送された。
A さんは身体的な治療を受けた後、精神科病棟に入院することになった。入院 3日の22 時、A さんがハサミを貸してほしいとナースステーションに来た。日勤 の看護師がいる時間帯のみ付き添いでハサミの貸出が可能という主治医からの指示 を伝えると「看護師B は貸してくれたのに。こんなひどい対応をする看護師はあな ただけだ」と話し、その場を動かない。 このときのA さんへの対応で適切なのはどれか。
公式正答:1
解説
境界性パーソナリティ障害の患者が、夜間にハサミの貸出を求め、他の看護師と比べて非難した場面での対応を問う。ハサミの使用目的を聞くことである。
この問題で問われていること
枠組みを保ちながら、関係を切らない対応を選べるか。
しくみから理解する
この場面では、2つのことを同時に行う必要がある。①主治医の指示という枠組みを保つこと、②患者の要求の背後にある必要と気持ちを理解しようとすること。使用目的を聞くことは、この両方に沿う。目的が分かれば、代わりの方法(看護師が切る、日勤の時間に行う、別の道具を使う)を提案でき、また、目的そのものが自傷の意図を含んでいないかも確認できる。何より、「あなたの言うことを聞こうとしている」という姿勢を示すことで、拒否だけの応答にならずに済む。
選択肢ごとの確認
看護師の付き添いのもとで貸し出すことは、指示に反する。日勤の時間帯のみという枠組みが、チームで決められた方針であり、夜勤の看護師が独自に判断して変えれば、枠組みが崩れる。次回以降、「あの人は貸してくれた」という形で、さらに枠組みが揺らぐ。
看護師Bが誤った対応をしたと説明することも適切でない。他の看護師を批判することは、チームへの不信を招き、また患者の分裂(スプリッティング)を強める。事実の確認が必要であれば、チーム内で行う。患者の前で同僚を否定しない。
「Aさんの行動が心配なので貸し出せない」と伝えることは、拒否を伝えるだけになり、患者の要求の内容を扱っていない。また、「あなたは危険だから」という含意は、患者を傷つけ、関係を悪くする。断る場合も、理由は方針として伝え、代わりにできることを示す。
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混同しやすいポイント
誤肢は、枠組みを崩すもの、同僚を否定するもの、そして拒否だけで終わるものになる。境界性パーソナリティ障害への関わりでは、「一貫した枠組み」と「関係の維持」の両立が難しく、どちらかに偏りやすい。枠組みを崩せばチームの対応が揺らぎ、関係を切れば患者は見捨てられたと感じる。使用目的を聞くという行為は、その中間にあり、次の対応につながる情報も得られる。
理解を深める
スプリッティング(分裂)への対応を整理する。スプリッティングとは、対象を「すべて良い」か「すべて悪い」かに分けて捉える心の働きで、境界性パーソナリティ障害でよくみられる。医療の場面では、「Bさんは分かってくれる、あなたは冷たい」という形で現れ、結果としてチームが分断される。対応の原則=①方針をチームで統一し、文書で共有する。②「誰がどう言ったか」ではなく、決まった方針を伝える。③患者の前で他の職員を評価しない。④職員が「自分だけは分かってあげたい」という気持ちになったとき、それ自体をカンファレンスで扱う。⑤陰性感情(この患者は面倒だ、操作的だ)も同様に、隠さず共有する。感情を抱くこと自体は自然であり、それを一人で抱えると対応が偏る。⑥定期的にカンファレンスを行い、方針を見直す。患者にとっても、対応が一貫していることは安心につながる。人によって言うことが変わる環境は、不安を高め、試すような行動を増やす。枠組みは、患者を縛るためではなく、安全と予測可能性を提供するためにある、という理解を、チーム全体で共有することが重要になる。
間違えやすい考え方
対応を問う型で、誤肢が枠組みを崩す・同僚を否定する・拒否だけで終わるものである。枠組みと関係の両立で切る。
5分で振り返る
①枠組みを保つことと、要求の背後にある気持ちを理解することを両立させる。②使用目的を聞けば、代わりの方法を提案でき、自傷の意図の有無も確認できる。③夜勤者が独自に判断して指示を変えると枠組みが崩れ、次回以降さらに揺らぐ。④患者の前で他の看護師を批判しない。分裂(スプリッティング)を強める。⑤「心配だから貸せない」は拒否だけで、要求の内容を扱っていない。⑥方針はチームで統一し、文書で共有する。⑦職員の陰性感情も隠さずカンファレンスで扱う。一人で抱えると対応が偏る。
1分チェック
- 枠組みを保ちつつ関わるには。→ まず使用目的を聞く(要求の背後にある必要を理解する)。
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