次の文を読み、問いに答えよ。Aさん(57歳、男性、無職)は妻(55歳、会社員)と2人で暮らしている。Aさんは、飲酒が原因で仕事での遅刻や無断欠勤が続いたため1年前に職場を解雇された。その後も朝から自宅で飲酒する生活が続き、体調が悪化したため受診し、アルコール性肝硬変alcoholiccirrhosisとアルコール依存症alcoholdependenceと診断された。医師から断酒を指導されていたが実行できず通院していなかった。Aさんは最近、倦怠感が強く食欲がなく、1週前から飲酒もできなくなった。妻に付き添われて受診した際、外来のトイレで吐血し倒れ食道静脈瘤破裂〈ruptureofesophagealvarices〉と診断され入院した。身体所見:呼びかけに応じるが反応が遅い。腹水や浮腫はない。手指の振戦はない。体温37.0℃、呼吸数22/分、脈拍98/分、整、血圧92/50mmHg、経皮的動脈血酸素飽和度〈SpO2〉98%(roomair)。
A さんは食道静脈瘤硬化療法を終えて、アルコール依存症 alcohol dependence の治療を受けるため に精神科病院に転院した。 転院して2か月、病棟ではA さんの退院に向けた話し合いが進められている。 A さんは「退院した後にお酒をやめられるか自信がない。体力が落ちており、何も していないとお酒を飲んでしまいそうです」と悩みを打ち明けた。 A さんへの看護師の声かけで適切なのはどれか。
公式正答:4
解説
アルコール依存症の治療のため転院し、退院後に酒をやめられるか自信がないと話す患者への声かけを問う。「アルコールの問題で悩んでいる人たちとの話し合いに参加してみましょう」である。
この問題で問われていること
依存症の回復を支える資源を知っているか。
しくみから理解する
アルコール依存症の回復では、自助グループへの参加が中心的な役割を果たす。断酒会やアルコホーリクス・アノニマスといったグループでは、同じ問題を抱える人が集まり、自分の体験を語り、他の人の話を聞く。ここで得られるのは、①一人ではないという感覚、②断酒を続けている人の姿という具体的な見通し、③飲みたくなったときの対処の知恵、④定期的に通う場と役割、そして⑤正直に話せる関係になる。「意思の強さ」で解決する問題ではなく、環境と関係によって支えられるという理解が、この疾患の治療の基本になる。この患者は「何もしていないと飲んでしまいそう」とも述べており、日中の過ごし方の枠組みという意味でも、参加は有効になる。
選択肢ごとの確認
「断酒をする意思を強く持ちましょう」という声かけは、依存症の理解として誤っている。依存症は、意思の弱さによる問題ではなく、脳の報酬系の変化を伴う疾患になる。意思を求めることは、既に何度も失敗している本人をさらに追い詰め、自責を強めるだけになる。
「肝硬変があるので、今は安静が必要です」という声かけは、患者の訴えに応えていない。また、体力の低下を訴えている患者に安静を勧めれば、活動の機会をさらに減らし、飲酒へ向かう時間を増やすことにもなる。体力の回復に向けた活動を、無理のない範囲で勧める方が適する。
「入院中も飲酒をやめられているので大丈夫です」という声かけは、根拠のない保証になる。入院中は酒が手に入らない環境であり、退院後の状況とは大きく異なる。本人が「自信がない」と述べているのは、この違いを自覚しているためであり、その認識は正しい。安易に打ち消すことは、不安を話しにくくする。
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混同しやすいポイント
誤肢は、意思論、訴えとずれた助言、そして根拠のない保証になる。とくに「意思を強く持て」という声かけは、依存症の患者に対して最も避けるべきものになる。この疾患の治療は、意思ではなく仕組みで支えるという発想に立つ。誤肢3も、一見すると励ましだが、本人の現実的な認識を否定する点で害がある。
理解を深める
アルコール依存症の治療と回復を整理する。治療の目標=原則として断酒になる。飲酒量の低減を目標とする場合もあるが、身体合併症が進んでいる場合や、離脱症状の既往がある場合は断酒が必要になる。治療の3本柱=①専門的な治療プログラム(集団療法、心理教育、認知行動療法)、②自助グループへの参加、③抗酒薬(ジスルフィラム、シアナミド。飲酒すると不快な反応が起こる)または飲酒欲求を抑える薬(アカンプロサート)。離脱症状=最終飲酒から数時間〜数日で、振戦、発汗、頻脈、不安、不眠が現れ、重症例では幻覚、けいれん、そして振戦せん妄(意識混濁、著しい興奮、幻視)に至る。ベンゾジアゼピン系薬とビタミンB1の補給で対応する。ウェルニッケ脳症(眼球運動障害、失調、意識障害)の予防のためビタミンB1を速やかに投与する。ただし低血糖時のブドウ糖投与を遅らせてはならず、両者を可能な限り同時または直ちに続けて行う。家族への支援=家族も巻き込まれて疲弊しており、家族会(アラノンなど)や相談機関の紹介が有効になる。「本人が飲まないように管理する」ことは、家族の負担を増やし、関係を悪くする(イネイブリング=結果的に飲酒を続けさせてしまう行動にも注意する)。看護=正直に話せる関係をつくる、失敗(再飲酒)を責めずに、そこから何を学べるかを一緒に考える、そして回復は直線ではなく、後戻りを含む過程であることを前提に関わる。
間違えやすい考え方
声かけを問う型で、誤肢が意思論・ずれた助言・根拠のない保証である。仕組みで支えるという発想で切る。
5分で振り返る
①アルコール依存症の回復では自助グループ(断酒会、アルコホーリクス・アノニマス)が中心的な役割を果たす。②得られるもの=一人ではない感覚、続けている人の姿、対処の知恵、通う場と役割、正直に話せる関係。③依存症は意思の弱さではなく、脳の報酬系の変化を伴う疾患。「意思を強く持て」は自責を強めるだけ。④入院中にやめられたことは、退院後の保証にならない。本人の不安の認識は正しい。⑤治療の3本柱=専門的なプログラム、自助グループ、薬物療法(抗酒薬、飲酒欲求を抑える薬)。⑥離脱症状=振戦、発汗、不安、不眠から、重症例では幻覚、けいれん、振戦せん妄。⑦ビタミンB1を速やかに投与するが、低血糖時のブドウ糖を遅らせない(可能な限り同時または直ちに続ける)。
1分チェック
- 退院後の断酒に自信がない患者には。→ 自助グループへの参加を勧める。
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