大規模災害が発生し、被災した住民は自治体が設置した避難所に集まり避難生活 を始めた。発災3日、自治体から派遣された看護師は避難所の片隅で涙ぐんでいる A さんへの関わりを始めた。A さんは「悲しい気持ちが止まりません」と話してい る。 このときのA さんへの看護師の発言で適切なのはどれか。
公式正答:3
解説
大規模災害の発災3日、避難所で涙ぐみ「悲しい気持ちが止まりません」と話す被災者への発言を問う。「悲しい気持ちが止まらないのは異常なことではないですよ」である。
この問題で問われていること
災害後の心理反応を、正常な反応として理解しているか。
しくみから理解する
災害のような異常な出来事に対して、悲しみ、恐怖、不安、怒り、不眠、集中の困難、そして身体の不調が生じることは、正常な人が異常な状況に置かれたときの正常な反応になる。これを伝えることは、「自分はおかしくなってしまった」という不安を和らげ、そのうえで自分の反応を受け入れる助けになる(心理教育)。時期の区分(急性期、反応期など)は幅のある目安で、境界は出典によって異なる。発災3日をどの時期と呼ぶかにかかわらず、いま現れている反応を異常でないと伝えることが関わりの中心になる。感情の表出を止めず、そばにいて聴くことが基本の関わりになる。
選択肢ごとの確認
「災害以外のことを何か考えましょう」は、感情の回避を促すことになる。悲しみを感じないようにすることは、その場では楽に見えても、感情の処理を妨げる。まず、いま感じていることを話せる場をつくる。
「あなたの悲しい気持ちは乗り越えられるものですよ」は、根拠のない保証であり、また回復への圧力にもなる。回復の過程と速さは人によって異なり、いま乗り越えることを求められると、そうできない自分を責めることになる。
「みんなが大変なのですからAさんも元気を出してください」は、我慢を求める言葉になる。被災者は既に「自分より大変な人がいる」と感じて訴えを控えていることが多く、この発言はその傾向をさらに強め、援助を求めにくくさせる。
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混同しやすいポイント
誤肢は、回避の促し、根拠のない保証、そして我慢の要求になる。いずれも、いま感じている気持ちを扱わずに、先へ進めようとしている。災害時の心理的支援では、「早く元気にする」ことが目的ではなく、「安全と安心を確保し、その人が自分の力を取り戻す過程を支える」ことが目的になる。この方向性が、選択肢の判断につながる。
理解を深める
災害時のこころのケアを整理する。サイコロジカル・ファーストエイド(心理的応急処置)=専門家でなくても実施できる、災害直後の支援の枠組みになる。①見る(安全、緊急の必要、深刻な反応を把握する)、②聞く(近づき、必要を尋ね、耳を傾け、落ち着く手助けをする)、③つなぐ(基本的な必要と社会的な支援、情報、そして専門的な支援へつなぐ)。原則として、無理に体験を語らせない(デブリーフィングは推奨されない)。時期別の反応=急性期(発災直後から数日)=茫然自失、興奮、不眠、過覚醒。反応期(数日から数週間)=悲しみ、怒り、罪責感、身体の不調。修復期(数週間から数か月)=日常への適応が進む一方、疲労と抑うつが現れることもある。復興期(数か月以降)=多くは回復するが、一部は心的外傷後ストレス障害、うつ病、アルコール問題を生じる。この時期の区分は幅のある目安で、境界も出典により異なる。反応の現れ方には個人差が大きいため、時期から反応を決めつけず、目の前の人がいまどうかを見る。専門的な支援へつなぐ目安=希死念慮、著しい不眠と食欲不振が続く、幻覚と妄想、解離、著しい興奮、飲酒量の増加、そして日常生活が営めない状態。支援者自身のケア=支援者も強いストレスを受ける。無理な勤務を避け、交代し、感情を話せる場を持つ。「支援者は元気でなければならない」という思い込みが、支援者の孤立を招く。
間違えやすい考え方
発言を問う型で、誤肢が回避の促し・根拠のない保証・我慢の要求である。正常な反応として伝える方向で切る。
5分で振り返る
①災害後の悲しみ、恐怖、不安、怒り、不眠、身体の不調は、異常な状況に対する正常な反応。②それを伝えることが、「おかしくなった」という不安を和らげる(心理教育)。③感情の表出を止めず、そばにいて聴くことが基本。④「他のことを考えましょう」は感情の回避を促す。⑤「乗り越えられる」は根拠のない保証で回復への圧力になる。⑥「みんな大変だから元気を出して」は我慢を求め、援助を求めにくくさせる。⑦サイコロジカル・ファーストエイドの3原則=見る・聞く・つなぐ。無理に体験を語らせない。
1分チェック
- 災害後の悲しみには。→ 「異常なことではない」と伝える(正常な反応であることの心理教育)。
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