A さん(88 歳、女性、要介護1)は長女(58 歳、会社員)と2人暮らしで、胃瘻を 造設し訪問看護を利用している。看護師の訪問時、A さんは頭痛、嘔気を訴え、 ベッドに横になっていた。バイタルサインは、体温37.6 ℃、呼吸数24/分、脈拍 96/分、整、血圧102/76 mmHg、口唇が乾燥している。室温は30 ℃である。長女 に連絡し、かかりつけ医に往診を依頼することにした。 医師が到着するまでの訪問看護師の対応で適切なのはどれか。
公式正答:2
解説
室温30℃の環境で、頭痛と嘔気を訴え、口唇が乾燥し、体温37.6℃、脈拍96回/分の88歳女性について、医師が到着するまでの対応を問う。腋窩を冷やすことである。
この問題で問われていること
所見から病態を特定し、その場でできる対応を選べるか。
しくみから理解する
室温30℃という環境、頭痛、嘔気、口唇の乾燥、体温の上昇、そして呼吸数の増加という所見は、熱中症を示す。脈拍96/分は、成人の安静時の基準(およそ60〜100/分)の範囲内で、上限に近い値になる。頻脈とは言えないが、本人の平常値より速ければ意味を持つため、日ごろの値と比べて読む。高齢者は、体温の調節機能が落ち、口渇を感じにくく、また暑さを自覚しにくいため、屋内でも熱中症になりやすい。対応の基本は、①涼しい環境へ移す、②衣服を緩める、③身体を冷やす、④水分と電解質を補給する、になる。身体を冷やす方法として、太い血管が体表近くを走る部位(腋窩、頸部、鼠径部)を冷やすと、効率よく体温を下げられる。あわせて、皮膚に霧吹きで水をかけて送風する方法も有効になる。
選択肢ごとの確認
頭を高くすることは、この場面での対応ではない。頭蓋内圧の亢進が疑われる場合や、呼吸困難のある場合に用いる。熱中症では、血圧が下がっていれば、むしろ下肢を挙上する。
水を飲ませることは慎重に判断する。嘔気があり、また高齢で意識レベルの評価が十分でない状態では、誤嚥の危険がある。加えて、水だけを大量に飲むと、電解質が薄まって低ナトリウム血症を招く。飲めるようであれば、経口補水液など電解質を含むものを少量ずつ与える。この事例では嘔気があるため、まず冷却を優先し、医師の到着を待つ。
中枢から末梢へ下肢をマッサージすることは、静脈還流の方向と逆になる。下肢のマッサージは末梢から中枢へ向けて行うのが原則になる。また、この場面で必要な対応でもない。
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混同しやすいポイント
「所見→病態→その場でできる対応」という順にたどる。誤肢のうち、水を飲ませることは一見すると正しく見えるが、嘔気があること、そして高齢者であることから、誤嚥の危険を考える必要がある。「良さそうに見える対応」でも、その患者の状態に照らして安全かを確認する。マッサージの方向も、生理から導ける。
理解を深める
高齢者の熱中症を整理する。分類=Ⅰ度(めまい、立ちくらみ、こむら返り、大量の発汗。現場での対応が可能)、Ⅱ度(頭痛、嘔気・嘔吐、倦怠感、虚脱感。医療機関の受診が必要)、Ⅲ度(意識障害、けいれん、高体温、肝腎機能の障害、血液凝固の異常。入院が必要で、緊急を要する)。この事例はⅡ度に相当する。高齢者が熱中症になりやすい理由=①体内水分量が少ない、②口渇を感じにくい、③発汗と皮膚血流による放熱の機能が落ちる、④暑さを自覚しにくい、⑤持病と薬剤(利尿薬、抗コリン薬)の影響、⑥経済的な理由や習慣で冷房を使わない、⑦一人暮らしで気づかれにくい。予防=室温28℃程度を目安に冷房を使う(温度計を見える場所に置く)、こまめな水分摂取(喉が渇く前に、時間を決めて)、塩分の適度な補給、涼しい服装、そして日中の外出を控える。周囲の見守りも重要で、訪問時には室温と本人の様子を必ず確認する。「冷房は身体に悪い」「もったいない」という考えを持つ人も多いため、健康を守るために必要であることを、繰り返し丁寧に伝える。
間違えやすい考え方
対応を問う型で、誤肢が別の場面の対応・危険を伴う対応・方向の誤りである。所見から病態を特定して切る。
5分で振り返る
①室温30℃、頭痛、嘔気、口唇の乾燥、体温上昇、呼吸数の増加は熱中症を示す。脈拍96/分は基準(およそ60〜100/分)の範囲内で頻脈ではない。本人の平常値と比べて読む。②対応=涼しい環境へ移す、衣服を緩める、身体を冷やす、水分と電解質を補給する。③冷却は、腋窩・頸部・鼠径部(太い血管が体表近くを走る部位)が効率的。霧吹きと送風も有効。④嘔気があり意識の評価が不十分なら、飲水は誤嚥の危険がある。水だけの大量摂取は低ナトリウム血症を招く。⑤下肢のマッサージは末梢から中枢へ。⑥分類=Ⅰ度(現場で対応可)、Ⅱ度(受診が必要)、Ⅲ度(入院、緊急)。⑦高齢者は体内水分量が少なく、口渇を感じにくく、暑さも自覚しにくい。屋内でも起こる。
1分チェック
- 熱中症が疑われるときは。→ 腋窩、頸部、鼠径部を冷やす(太い血管を冷やす)。
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