次の文を読み、問いに答えよ。Aさん(80歳、女性)は発熱があり、呼吸状態が悪いため、外来を受診し肺炎〈pneumonia〉と診断され緊急入院となった。入院時、病室でAさんは「ここはどこ」と話し混乱した様子であった。湿性の咳嗽があり、口唇の乾燥が著明である。同居の夫からの情報では、1週前から食事は摂れていたが、水分摂取量が減っていた。3日前から寝て過ごしていたが、トイレには自分で行くことができていた。身の回りのことは自立している。入院後に点滴静脈内注射1,500mL/日の指示があり、抗菌薬が開始された。身体所見:身長152cm、体重45kg、体温38.0℃、呼吸数32/分、脈拍120/分、整、血圧107/80mmHg、経皮的動脈血酸素飽和度〈SpO2〉93%(roomair)。ジャパン・コーマ・スケール〈JCS〉Ⅰ-2。検査所見:赤血球447万/μL、Hb12.5g/dL、白血球16,600/μL、総蛋白6.2g/dL、アルブミン4.0g/dL、血糖98mg/dL、Na151mEq/L、K4.0mEq/L、Cl97mEq/L、Ca8.7mg/dL、CRP23.0mg/dL。
入院当日、A さんは日中は会話ができていたが、夕方からそわそわしながら落 ち着かない様子であった。また、話のつじつまが合わず、朝と夕方を間違え急に大 きな声を出し、夜中に起きだして自分の荷物を触っていることがあった。翌日、日 中は眠気を訴えながらも眠ることなく静かに過ごし、夜間は焦燥があり眠れていな い。 A さんの状態はどれか。
公式正答:1
解説
入院当日の夕方からそわそわして落ち着かず、話のつじつまが合わず、朝と夕方を間違え、夜中に起き出す80歳女性の状態を問う。せん妄である。
この問題で問われていること
急性の意識の変容と、他の睡眠の障害を区別できるか。
しくみから理解する
せん妄は、急性に発症し、注意と意識が障害され、症状が日内で変動することを特徴とする。この事例では、①入院当日という急な発症、②夕方から悪化する(夕暮れ症候群)、③話のつじつまが合わない(思考の障害)、④朝と夕方を間違える(時間の見当識の障害)、⑤夜間の行動、⑥日中は眠気があるが眠れない(睡眠・覚醒のリズムの障害)と、すべてが当てはまる。誘因も明確で、発熱、脱水、電解質異常、低酸素、感染、そして入院という環境の変化が重なっている。
選択肢ごとの確認
睡眠時遊行症(夢遊病)は、ノンレム睡眠の深い段階から部分的に覚醒し、歩き回るなどの行動をとる状態になる。多くは小児期にみられ、本人は覚えていない。日中の意識は正常で、日内変動もない。
レム睡眠行動障害は、レム睡眠中に筋の緊張が保たれ、夢の内容に一致した行動(叫ぶ、暴れる、殴る)をとる状態になる。高齢の男性に多く、レビー小体型認知症とパーキンソン病に先行することがある。日中の意識は清明で、覚醒すると夢の内容を覚えていることが多い。
睡眠時無呼吸症候群は、睡眠中に呼吸が繰り返し止まる状態で、いびき、日中の強い眠気、そして起床時の頭痛を伴う。この事例の所見とは異なる。
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混同しやすいポイント
誤肢は、いずれも睡眠に関わる障害だが、意識は保たれている点で共通する。せん妄の核心は「意識の変容」にあり、注意が保てず、話がまとまらず、見当識も障害される。加えて、日内変動(夕方から夜間に悪化)という特徴が、判定の手がかりになる。誘因が明確にある(発熱、脱水、入院)という点も、せん妄を支持する。
理解を深める
せん妄の理解と対応を整理する。3つの因子=①準備因子(もともと持っている、なりやすさ:高齢、認知症、脳血管障害の既往、視力と聴力の低下)、②直接因子(せん妄を引き起こす身体的な原因:感染、脱水、電解質異常、低酸素、低血糖、疼痛、便秘、尿閉、発熱、手術、薬剤)、③誘発因子(悪化させる要因:環境の変化、身体拘束、睡眠の妨げ、感覚の遮断、不安)。対応の順序=①直接因子を取り除く(これが最も重要になる。この事例では、肺炎の治療、脱水と電解質の補正)、②誘発因子を減らす(環境の調整、眼鏡と補聴器の使用、時計とカレンダー、日中の採光、夜間の静穏、家族の面会、日課の維持、身体拘束を避ける、不要なチューブを外す)、③薬物療法は、上記を行っても危険がある場合に、最小限で用いる。抗精神病薬が用いられるが、ベンゾジアゼピン系はせん妄を悪化させることがあるため、原則として避ける(アルコールの離脱による場合を除く)。認知症との区別=せん妄は急性発症、変動性、注意の障害が顕著、可逆的。認知症は緩徐な発症、進行性、記憶の障害が中心、慢性。ただし、認知症のある人はせん妄を起こしやすく、両者が併存することも多い。「いつもと違う」という変化を捉えることが、判断の出発点になる。
間違えやすい考え方
状態を問う型で、誤肢がすべて意識の保たれた睡眠の障害である。意識の変容と日内変動で切る。
5分で振り返る
①せん妄=急性に発症し、注意と意識が障害され、日内で変動する。夕方から夜間に悪化しやすい(夕暮れ症候群)。②この事例では、急な発症、夕方からの悪化、思考のまとまりのなさ、時間の見当識の障害、夜間の行動、睡眠・覚醒のリズムの障害がそろう。③誘因=発熱、脱水、電解質異常、感染、入院という環境の変化。④睡眠時遊行症、レム睡眠行動障害、睡眠時無呼吸症候群は、いずれも日中の意識が保たれる。⑤3つの因子=準備因子(高齢、認知症)、直接因子(感染、脱水、薬剤など)、誘発因子(環境、拘束、不眠)。⑥対応は直接因子の除去が最優先。⑦ベンゾジアゼピン系はせん妄を悪化させうるため原則として避ける。
1分チェック
- 急な発症+日内変動+見当識の障害は。→ せん妄。
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