次の文を読み、問いに答えよ。Aさん(50歳、男性、自営業)は妻(48歳)、長男(23歳、会社員)と3人で暮らしている。3年前から歩行時のふらつきを自覚していたが、日常生活動作〈ADL〉は自立していた。最近、転倒が多くなり医療機関を受診して頭部CT検査を受けたところ、小脳と脳幹に萎縮を認め、遺伝性の脊髄小脳変性症〈spinocerebellardegeneration〉と診断された。Aさんは「母も同じ疾患で亡くなりました。妹が同じ敷地内に1人で暮らしていますが、妹も転ぶことが多くなり、医師の勧めで遺伝子診断を受ける予定です。明日、保健所に難病の医療費助成の申請に行くのですが、保健師に伝えた方がよいことはありますか」と看護師に質問した。
1か月後の定期受診のときに、A さんは「長男に私の病名と遺伝性の疾患である ことを伝えました。長男には何も症状はありませんが、発症前診断を受けて欲しい と思っています」と外来の看護師に話した。 看護師のA さんへの対応で適切なのはどれか。
公式正答:1
解説
遺伝性の脊髄小脳変性症の患者が、症状のない長男に発症前診断を受けてほしいと話した際の対応を問う。長男が疾患についてどの程度知っているかを確認することを勧めることである。
この問題で問われていること
発症前診断の前提を理解しているか。
しくみから理解する
発症前診断は、将来発症する可能性のある疾患について、症状が現れる前に遺伝子を調べる検査になる。結果は、本人の人生設計、就労、保険、結婚、そして家族関係に大きな影響を及ぼす。したがって、①本人が自らの意思で受けることを決める、②十分な情報を得たうえで判断する、③遺伝カウンセリングを受ける、④結果を受け止める心の準備がある、という条件が満たされる必要がある。この事例では、父親が受けてほしいと望んでいる段階であり、長男本人の意思も、疾患についての理解の程度も不明になる。したがって、まず長男がどの程度知っているかを確認することが出発点になる。
選択肢ごとの確認
「症状がないので発症前診断では発症の予測はできない」というのは誤りになる。発症前診断は、まさに症状がない段階で行うものであり、原因となる遺伝子の変異が特定されている疾患では、将来の発症を予測できる。ただし、発症の時期と重症度までは予測できないことが多い。
「両親の同意があれば長男が発症前診断を受けることができる」というのも誤りになる。長男は23歳の成人であり、本人の意思が必要になる。仮に未成年であっても、成人期に発症し、発症前の治療法がない疾患については、本人が判断できる年齢になるまで実施しないことが原則とされる。子どもの「知らないでいる権利」を守るためになる。
頭部CT検査を勧めることも適切でない。症状のない段階で画像検査を行っても、発症の予測にはならない。また、本人の意思を確認せずに検査を勧めること自体が、上記の原則に反する。
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混同しやすいポイント
誤肢は、検査の意味の誤り、同意の主体の誤り、そして検査の選択の誤りになる。この分野の核心は、「本人の自己決定」と「知らないでいる権利」にある。家族が望んでも、本人が望まなければ行わない。この原則を守ることが、遺伝医療における看護の基本になる。
理解を深める
遺伝医療における看護を整理する。原則=①自律の尊重(本人が決める)、②知る権利と知らないでいる権利の両方を守る、③十分な情報の提供(検査で何が分かるか、分からないか、結果をどう使えるか、心理的な影響)、④守秘(遺伝情報は本人だけでなく血縁者にも関わるため、取り扱いに特別な配慮が要る)、⑤差別の防止(就労、保険、結婚における不利益)。遺伝カウンセリング=遺伝に関する情報を提供し、本人と家族が自ら意思決定できるよう支援する過程になる。臨床遺伝専門医と認定遺伝カウンセラーが担い、看護師も関わる。発症前診断の流れ=①相談、②遺伝カウンセリング(複数回)、③考える時間を十分にとる、④本人の意思の確認、⑤検査、⑥結果の開示(対面で、支援者とともに)、⑦結果後のフォロー(心理的な支援、医療と生活の計画)。結果が陽性でも陰性でも、心理的な影響は大きい。陰性の場合も、「なぜ自分だけ」という罪責感(サバイバーズギルト)が生じることがある。看護師の役割=①正確な情報を伝える、②本人の気持ちを聴く、③家族の間の関係に配慮する(この事例のように、親が子に受けさせたいと望む場面では、両者の思いを別々に聴く必要がある)、④専門の窓口(遺伝カウンセリング外来)へつなぐ、⑤結果にかかわらず、その後の生活を支える。
間違えやすい考え方
対応を問う型で、誤肢が検査の意味・同意の主体・検査の選択で誤っている。本人の自己決定という原則で切る。
5分で振り返る
①発症前診断は、症状が現れる前に遺伝子を調べる検査。人生設計、就労、保険、結婚、家族関係に大きく影響する。②条件=本人が自らの意思で決める、十分な情報を得る、遺伝カウンセリングを受ける、結果を受け止める準備がある。③この事例では、長男本人の意思も理解の程度も不明。まず確認することが出発点。④原因遺伝子が特定されている疾患では発症を予測できる(ただし時期と重症度までは分からないことが多い)。⑤23歳の成人であり、本人の意思が必要。未成年でも、成人期発症で発症前の治療法がない疾患は、本人が判断できる年齢まで実施しないのが原則。⑥「知らないでいる権利」も守る。⑦陰性でも罪責感が生じることがある。結果にかかわらず支援を続ける。
1分チェック
- 発症前診断を望まれた家族には。→ 本人がどの程度知っているかをまず確認する。
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