次の文を読み、問いに答えよ。Aさん(72歳、女性)は、1人で暮らしている。小学校の教員を定年退職後、書道教室に月2回、体操教室に月1回通っている。20年前に高血圧症〈hypertension〉と診断され、月に1回かかりつけの病院を受診し、内服治療をしている。6か月前から、Aさんは病院の受診日を間違えたり、書道教室の日時を忘れることがあり、かかりつけの医師に相談した。Aさんは認知症専門医を紹介され、Mini-MentalStateExamination〈MMSE〉18点で、軽度のAlzheimer〈アルツハイマー〉型認知症Alzheimerdiseaseと診断された。
A さんに出現している認知機能障害はどれか。
公式正答:2
解説
受診日を間違えたり書道教室の日時を忘れたりする、軽度アルツハイマー型認知症の72歳女性に出現している認知機能障害を問う。近時記憶障害である。
この問題で問われていること
記憶の分類を、時間軸で区別できるか。
しくみから理解する
記憶は、保持される時間によって、即時記憶(数秒から数十秒、復唱できる範囲)、近時記憶(数分から数日、いったん意識から離れた後に思い出す)、遠隔記憶(数か月から数十年前の出来事)に分けられる。アルツハイマー型認知症では、海馬が早期から障害されるため、新しい情報を記銘して保持する近時記憶がまず失われる。受診日や教室の日時といった、最近覚えた予定を忘れることは、近時記憶障害の典型的な現れになる。一方、昔の出来事や、長年身につけた技能は比較的保たれる。
選択肢ごとの確認
脱抑制は、社会的に適切な行動を抑える働きが失われ、衝動的な言動、無遠慮な発言、万引きといった行動が現れる状態を指す。前頭側頭型認知症で目立つ症状で、アルツハイマー型の初期には一般的でない。
実行機能障害は、目標を立て、計画し、順序立てて実行する働きの障害を指す。料理の段取りが悪くなる、家事に時間がかかるといった形で現れる。アルツハイマー型でも進行に伴って現れるが、この事例で記述されているのは予定を忘れることであり、記憶の問題になる。
物盗られ妄想は、財布や通帳がなくなったと訴え、身近な人を疑う症状で、アルツハイマー型認知症でよくみられる。ただしこの事例には記述がなく、また記憶障害を背景として二次的に生じる行動・心理症状にあたる。
もっと詳しく読む
混同しやすいポイント
事例文に書かれている事実(受診日を間違える、教室の日時を忘れる)から、直接に対応する障害を選ぶ。誤肢は、別の症状(脱抑制、物盗られ妄想)と、この事例には記述のない障害(実行機能障害)になっている。認知症の症状を、中核症状(記憶障害、見当識障害、実行機能障害、失語・失行・失認)と、行動・心理症状(妄想、幻覚、徘徊、興奮、抑うつ、不安、脱抑制)に分けて整理しておくと判断しやすい。
理解を深める
アルツハイマー型認知症は、緩やかに発症して進行し、近時記憶障害から始まって、見当識障害(時間→場所→人の順に失われる)、実行機能障害、失語、失行、失認へと広がる。病識は初期から乏しいことが多いが、この事例のように軽度の段階では、本人が不安を自覚し、自ら相談することもある。この時期の関わりが重要で、本人の不安に寄り添い、できていることを認め、残された力を活かす工夫を一緒に考えることが、その後の生活を大きく左右する。診断後の空白期間(診断されたが具体的な支援につながらない時期)が課題として指摘されており、認知症初期集中支援チーム、認知症疾患医療センター、地域包括支援センター、そして本人ミーティングや当事者の会といった資源につなぐことが求められる。早期に診断される意義は、治療の開始だけでなく、本人が自分の意思を表明し、これからの生活を自分で決められる時間を持てることにある。
間違えやすい考え方
症状の名称を問う型で、誤肢が別の症状と記述のない障害である。事例文の事実に直接対応するもので切る。
5分で振り返る
①記憶は即時(数秒)、近時(数分〜数日)、遠隔(数か月〜数十年)に分かれる。②アルツハイマー型では海馬が早期に障害され近時記憶から失われる。③遠隔記憶と長年の技能は比較的保たれる。④脱抑制は前頭側頭型認知症で目立つ。⑤実行機能障害は段取りの障害で、この事例には記述がない。⑥中核症状=記憶、見当識、実行機能、失語・失行・失認。行動心理症状=妄想、幻覚、徘徊、興奮、抑うつ。⑦見当識は時間→場所→人の順に失われる。
1分チェック
- 最近の予定を忘れるのは。→ 近時記憶障害(海馬の障害、アルツハイマー型の初期症状)。
この問題に対応する教材の確認中です。