次の文を読み、問いに答えよ。Aさん(87歳、女性、要介護1)は1人暮らしで、長女(52歳、会社員)が同じマンションの隣の部屋に住んでいる。5年前に乳癌〈breastcancer〉のため左乳房切除術を受けた。1年前に肺への転移が確認され、胸水の貯留への対症療法のため入退院を繰り返していた。退院後は、状態観察と体調管理のため大学病院の外来を月に2回受診し、訪問介護と訪問看護を週に1回ずつ利用して在宅療養を続け「これ以上の積極的な治療はせずに自宅で最期まで過ごしたい」と話している。ある日、長女から「最近、母は通院がつらそうで、先月は1回しか受診していません。医師の診察は大事だと思うので、受診を続けるために主治医に何を相談すればよいでしょうか」と訪問看護師に相談があった。
6か月後、A さんは長女に見守られ自宅で最期を迎えた。2週後、長女から「私 なりに頑張りましたが、十分に介護してあげられなかった。もっとできることが あったのではと考えてしまいます」と訪問看護師に連絡があった。 訪問看護師の長女への対応で適切なのはどれか。
公式正答:3
解説
自宅で母を看取った2週後に「十分に介護してあげられなかった。もっとできることがあったのでは」と連絡してきた長女への対応を問う。「最期までよく介護していたと思いますよ」である。
この問題で問われていること
悲嘆のなかにある遺族に、何を返すべきかを判断できるか。
しくみから理解する
看取りの後、遺族が「もっとできたのではないか」と自責の念を抱くことは、悲嘆の過程でよくみられる反応になる。この時期に必要なのは、これまでの介護を認め、十分にやっていたと伝えることになる。実際にこの長女は、仕事を調整しながら(介護休業制度の短時間勤務等の措置を利用して)毎日午後に介護し、最期を看取っている。その事実に基づいて、努力を認める言葉を返すことが、自責の念を和らげる。看護師は、その過程を実際に見てきた立場にあり、その言葉には具体的な裏づけがある。
選択肢ごとの確認
「もう少し仕事を休んで傍にいられたらよかったですね」という言葉は、自責の念を肯定し、強めることになる。遺族が最も言われたくない言葉であり、悔いを深める。
「何をすればよかったのか一緒に考えましょう」も、できなかったことを振り返らせることになる。既に終わったことについて改善点を探しても、罪悪感を強めるだけで、何の解決にもならない。
「仕事に集中してみましょう」は、悲嘆を避けさせる対応になる。悲しみを感じ、語ることは、回復の過程に必要なものであり、それを別のことで紛らわせるよう促すことは、感情の表出を妨げる。また、訴えを受け止めていないというメッセージにもなる。
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混同しやすいポイント
誤肢は、自責を肯定する、振り返らせる、そらす、という3つの方向で、いずれも悲嘆を深めるか、受け止めないものになっている。この場面で求められているのは、評価や助言ではなく、承認と受容になる。「よくやっていた」という言葉は、単なる慰めではなく、看護師が実際に見てきた事実に基づく評価であり、だからこそ意味を持つ。
理解を深める
グリーフケア(悲嘆のケア)は、看取りの後も続く支援になる。悲嘆の反応としては、身体的なもの(不眠、食欲不振、疲労、動悸)、感情的なもの(悲しみ、怒り、罪悪感、無力感、安堵とそれへの罪悪感)、認知的なもの(故人のことばかり考える、集中できない)、行動的なもの(泣く、故人の物を整理できない、社会的な引きこもり)がある。これらは正常な反応であり、時間とともに和らいでいく。訪問看護ステーションでは、看取りの後に遺族を訪問する、手紙を送る、遺族会を開くといった取り組みが行われている。この事例のように遺族から連絡があった場合は、話を聴き、労い、そして正常な反応であることを伝える。長期にわたって強い悲嘆が続き、日常生活に支障をきたす場合(複雑性悲嘆)は、専門的な支援につなぐ。介護の期間が長く、介護者としての役割が生活の中心になっていた人では、その役割の喪失も同時に体験することになり、支援の対象になる。
間違えやすい考え方
『適切な対応』を問う型で、誤肢が自責の肯定・振り返り・そらしである。承認と受容で切る。
5分で振り返る
①看取りの後に「もっとできたのでは」と自責するのは悲嘆の過程でよくある反応。②必要なのはこれまでの介護を認めること(看護師は実際に見てきた立場で、言葉に裏づけがある)。③「もう少し〜できたら」は自責を肯定して深める。④「何をすればよかったか考える」は振り返らせて罪悪感を強める。⑤「仕事に集中を」は悲嘆を避けさせ、訴えを受け止めていない。⑥悲嘆の反応は身体・感情・認知・行動に現れ、正常な過程。⑦長期に続き生活に支障があれば複雑性悲嘆として専門的支援へ。
1分チェック
- 看取り後に自責を語る遺族には。→ これまでの介護を認め、よくやっていたと伝える。
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