次の文を読み、問いに答えよ。Aさん(44歳、男性)は、午前9時に発生した震度5強の地震で自宅の2階から慌てて逃げる際に階段から転落した。午前9時30分、Aさんは殿部に激しい痛みが出現し動けなくなったため、救急車で搬送され入院した。身体所見:体温36.8℃、呼吸数22/分、脈拍100/分、血圧76/38mmHg、経皮的動脈血酸素飽和度〈SpO2〉95%(roomair)。検査所見:赤血球300万/μL、Hb9.0g/dL、CRP0.3mg/dL、Na140mEq/L、K4.0mEq/L、濃縮尿、尿比重1.020、尿潜血(+)。
A さんの状態で考えられるのはどれか。
公式正答:2
解説
地震で階段から転落し、殿部に激しい痛みで動けなくなった44歳男性。血圧76/38mmHg、脈拍100/分、Hb 9.0g/dL、尿潜血陽性という所見から考えられるものを問う。骨盤骨折である。
この問題で問われていること
受傷機転と所見を統合して、損傷部位を推定できるか。
しくみから理解する
階段からの転落という受傷機転で、殿部に激しい痛みがあり動けない。これは骨盤への直接的な外力を示唆する。骨盤骨折では、骨盤内には豊富な静脈叢と動脈があり、後腹膜腔という広い空間へ大量に出血しうる。血圧76/38mmHgという著明な低血圧、脈拍100/分の頻脈、ヘモグロビン9.0g/dLの貧血は、この出血性ショックを反映している。尿潜血陽性は、骨盤骨折に伴う膀胱や尿道の損傷を示唆する所見になる。濃縮尿と尿比重1.020は、循環血液量の減少による腎の代償を示している。
選択肢ごとの確認
敗血症は、CRPが0.3mg/dLと正常で、体温も36.8℃であることから否定的になる。また受傷から30分での搬送であり、感染が成立する時間経過でもない。
硬膜下血腫であれば、頭部外傷の記述と、意識障害や神経学的な所見が現れる。この事例には頭部の受傷と意識の異常の記述がない。一方、殿部の激しい痛みで動けないことと、ショックの所見は、骨盤骨折による出血で説明できる。なお、頭蓋内圧亢進による血圧上昇と徐脈(クッシング現象)は、脳ヘルニアが差し迫った段階に現れる遅い徴候であり、これが現れていないことは頭蓋内血腫を否定する根拠にならない。外傷では、骨盤骨折による出血性ショックと頭蓋内血腫が併存することもある。
腰部脊柱管狭窄症は、加齢に伴う変性疾患で、間欠性跛行と下肢のしびれを特徴とする慢性の疾患になる。外傷で急に発症するものではなく、また出血性ショックも起こさない。
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混同しやすいポイント
受傷機転(転落)、部位(殿部)、そしてショックの所見(低血圧、頻脈、貧血)を統合する。誤肢は、炎症所見がない(敗血症)、部位が違う(硬膜下血腫)、経過が違う(脊柱管狭窄症)という理由でそれぞれ除外できる。検査値が、除外のために配置されている点も読み取る。
理解を深める
骨盤骨折は、外傷のなかでも出血量が多く、致死率の高い損傷になる。骨盤輪が破綻すると、後腹膜腔の容積が増えてタンポナーデ効果が働かなくなり、出血が止まらなくなる。初期対応としては、骨盤の動揺を最小限にして固定すること(骨盤固定具、シーツラッピング)が重要で、これにより骨盤腔の容積を減らして止血を図る。不用意な体位変換や、骨盤の動揺を確認する診察の繰り返しは、血栓を剥がして出血を助長するため避ける。輸液と輸血を行い、動脈性の出血があれば経カテーテル動脈塞栓術、あるいは創外固定と骨盤内パッキングを行う。看護では、バイタルサインの継続的な観察、ショックの徴候(意識、皮膚の色と温度、尿量、毛細血管再充満時間)、出血量の評価、輸液と輸血の管理、疼痛の管理、そして体位変換の際の慎重な取り扱いを行う。合併する損傷(膀胱、尿道、直腸、神経、他の骨折、腹腔内臓器)の評価も必要になる。尿道損傷が疑われる場合は、膀胱留置カテーテルの挿入を控え、医師の判断を仰ぐ。
間違えやすい考え方
事例から病態を推定する型で、誤肢が検査値と経過で除外できる。受傷機転と部位、ショックの所見で切る。
5分で振り返る
①骨盤骨折は後腹膜腔へ大量出血し、出血性ショックを起こす。②所見=低血圧、頻脈、貧血、濃縮尿。③尿潜血は膀胱・尿道損傷を示唆する。④CRP正常と体温正常で敗血症は否定的。⑤硬膜下血腫なら頭部外傷と意識障害、血圧はむしろ上昇し徐脈になる。⑥初期対応は骨盤の固定(骨盤固定具、シーツラッピング)で容積を減らして止血を図る。⑦不用意な体位変換と骨盤の動揺の確認は出血を助長する。⑧尿道損傷が疑われればカテーテル挿入を控える。
1分チェック
- 転落+殿部痛+ショック+尿潜血は。→ 骨盤骨折(後腹膜腔への大量出血)。
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