次の文を読み、問いに答えよ。Aさん(58歳、男性、会社員)は、身長175cm、体重73kgである。Aさんは、健康診断の胸部エックス線撮影で異常陰影を指摘され、3週前に胸部造影CT検査を受けた。左肺下葉に約8mmの病変が見つかり、精密検査の結果、肺癌〈lungcancer〉(T1N0M0)と診断され、本日、手術目的で入院した。咳嗽、息苦しさ、喀痰はない。喫煙歴があり、20年間20本/日、禁煙後18年である。バイタルサイン:体温36.9℃、呼吸数14/分、脈拍72/分、整、血圧136/76mmHg、経皮的動脈血酸素飽和度〈SpO2〉96%(roomair)。検査所見:赤血球510万/μL、Hb15.6g/dL、Ht47%、白血球6,200/μL、血小板32万/μL、総蛋白7.7g/dL、アルブミン4.2g/dL、空腹時血糖102mg/dL。呼吸機能所見:%VC76%、FEV1%73%。
A さんの手術は予定通りの術式で行われ、肺癌〈lung cancer〉は術 前診断通りの病期であった。A さんの術後経過は良好であり、退院日が決定した。A さんのバイタルサインは、 体温36.3 ℃、呼吸数18/分、脈拍66/分、整、血圧134/76 mmHg、経皮的動脈血 酸素飽和度〈SpO2〉97 %(room air)であった。 退院後の生活指導で正しいのはどれか。
公式正答:3
解説
胸腔鏡下左下葉切除術後、経過良好でバイタルサインも安定している患者への退院後の生活指導を問う。「少しずつ活動量を増やしてください」である。
この問題で問われていること
術後の回復期における活動の考え方を判断できるか。
しくみから理解する
肺を切除した後は、残った肺が代償的に働くようになり、日常生活に必要な呼吸機能は回復していく。この過程を促すのが、段階的な活動量の増加になる。安静を続ければ、体力と呼吸機能の回復が遅れ、廃用が進む。無理のない範囲で歩行から始め、徐々に距離と時間を延ばし、日常生活の動作を広げていく。息切れの程度を目安に、話しながら歩ける程度の強度を保つ。数か月かけて、術前の生活に近づけることを目標にする。
選択肢ごとの確認
インフルエンザワクチンは接種できる。むしろ、呼吸機能が低下した状態では、呼吸器感染症が重症化しやすいため、接種が推奨される。肺炎球菌ワクチンも同様になる。手術を受けたことは接種の禁忌にならない。
左手で重い荷物を持たないという制限は、この術式では通常必要ない。胸腔鏡下手術では創が小さく、筋の切離も少ないため、上肢の使用を長期に制限する理由がない。開胸手術で広背筋や前鋸筋を切離した場合は、一定期間の配慮が必要になることもあるが、いずれにせよ肩関節の可動域訓練は早期から行う。制限より、動かすことのほうが重要になる。
自宅での酸素吸入は必要ない。術後の酸素飽和度は97%(室内気)と保たれており、在宅酸素療法の適応にならない。適応となるのは、安静時の動脈血酸素分圧が55Torr以下、または60Torr以下で睡眠時や運動時に著しい低下をきたす場合になる。
もっと詳しく読む
混同しやすいポイント
誤肢は、必要のない制限(ワクチン、上肢の使用、酸素)で構成されている。術後の指導では、何を制限するかより、どう回復を促すかが中心になる。この患者は経過良好で、バイタルサインも安定しており、制限を要する所見がない。過剰な制限は、生活の質を下げ、回復を遅らせる。
理解を深める
肺切除術後の退院指導は、活動、呼吸、感染予防、そして受診の目安から成る。活動=段階的に増やす、息切れの程度を目安にする、疲れたら休む、重い物を持つのは1か月程度控える(創の治癒を待つ)、入浴は創が治癒してから、運転は疼痛が落ち着いてから。呼吸=深呼吸と排痰を続ける、口すぼめ呼吸、禁煙の継続(喫煙は再発と合併症のリスクを高める)。感染予防=手洗い、うがい、人混みを避ける、ワクチンの接種。受診の目安=発熱、痰の増加や性状の変化、息切れの悪化、胸痛、創部の発赤や滲出液。あわせて、肺癌の術後は定期的な経過観察(画像検査と診察)が長期に必要になることと、その意義を伝える。仕事への復帰については、職種と体力の回復に応じて、主治医と相談しながら段階的に進める。喫煙者であった患者では、禁煙の継続が最も重要な指導になるが、この患者は既に18年禁煙している。
間違えやすい考え方
『正しい生活指導』を問う型で、誤肢がすべて必要のない制限である。回復を促す方向で切る。
5分で振り返る
①残った肺が代償的に働くため、段階的に活動量を増やして回復を促す。②息切れの程度を目安に、話しながら歩ける強度で。③インフルエンザと肺炎球菌のワクチンは推奨される(禁忌ではない)。④胸腔鏡下手術では上肢の使用を長期に制限しない、肩の可動域訓練は早期から。⑤酸素飽和度97%なら在宅酸素療法の適応はない。⑥重い物は1か月程度控え、入浴は創の治癒後。⑦受診の目安=発熱、痰の変化、息切れの悪化、胸痛、創部の異常。
1分チェック
- 肺切除術後の退院指導は。→ 少しずつ活動量を増やす(安静ではなく段階的な回復)。
この問題に対応する教材の確認中です。