次の文を読み、問いに答えよ。Aさん(43歳、男性、会社員)は、1か月前に右頸部の腫瘤を自覚した。大学病院で非Hodgkin〈ホジキン〉リンパ腫〈non-Hodgkinlymphoma〉と診断され化学療法導入目的で入院した。バイタルサイン:体温37.1℃、呼吸数16/分、脈拍84/分、整。身体所見:顔面に浮腫を認める。検査所見:Hb12.8g/dL、白血球6,400/μL、総蛋白7.6g/dL、アルブミン4.1g/dL。胸部造影CT:縦隔リンパ節腫大による上大静脈の圧迫を認める。
A さんはR-CHOP 療法終了後も嘔気・嘔吐が続き、制吐薬の追加投与を受け た。治療後3日、「やっと楽になって食事が摂れるようになったけど、やっぱりつ らかった。思い出すだけでも気持ち悪くなります」と話している。 A さんの次回のR-CHOP 療法において、嘔気・嘔吐への対応で適切なのはどれ か。
公式正答:3
解説
R-CHOP療法後に悪心・嘔吐が続き、治療後3日に「思い出すだけでも気持ち悪くなる」と話す患者について、次回の治療での対応を問う。治療前の制吐薬の投与である。
この問題で問われていること
悪心・嘔吐の3つの型と、その予防の考え方を理解しているか。
しくみから理解する
化学療法に伴う悪心・嘔吐は、急性(投与後24時間以内)、遅発性(24時間以降、数日続く)、予期性(次回の治療の前に、記憶や連想によって生じる)の3つに分けられる。この患者は「思い出すだけでも気持ち悪くなる」と述べており、予期性の悪心・嘔吐が生じつつある状態になる。予期性は、前回の体験が条件づけとして残ることで生じるため、いったん成立すると制吐薬が効きにくい。したがって最も重要なのは、初回から確実に予防することであり、治療前からの制吐薬の投与(前投薬)が対応になる。
選択肢ごとの確認
1日1,000mLの水分摂取は、脱水の予防としては意味があるが、悪心・嘔吐そのものの予防にはならない。また嘔吐が続いている状態では、無理に飲ませることが嘔吐を誘発することもある。
治療前日の夕食を中止することは、栄養状態を悪化させ、体力を落とす。空腹が悪心を強めることもある。食事は無理のない範囲で摂り、消化のよいもの、においの少ないもの、冷たいものを選ぶといった工夫をする。
抗癌薬の減量は、治療効果を下げることになる。悪心・嘔吐は制吐薬でコントロールできる副作用であり、それを理由に治療の強度を落とすのは、支持療法が不十分な場合の判断になる。まず制吐療法を最適化する。
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混同しやすいポイント
「予期性の悪心・嘔吐は、成立させないことが最善」という原則が要点になる。誤肢は、水分(別の目的)、絶食(有害)、減量(治療効果の低下)で構成されている。支持療法を強化して治療を続けられるようにする、という考え方が背景にある。
理解を深める
制吐療法は、抗癌薬の催吐性リスクに応じて選択される。高度催吐性リスク(シスプラチンなど)では、5-HT3受容体拮抗薬、NK1受容体拮抗薬、デキサメタゾンにオランザピンを加えた4剤併用が、現在の指針で標準として示されている(それ以前はオランザピンを含まない3剤併用が基本とされていた)。オランザピンは眠気や高齢者での過鎮静があり、糖尿病では禁忌になるため、個々の患者で調整する。中等度では2剤、軽度では1剤、最小度では予防投与を行わないこともある。R-CHOP療法に含まれるシクロホスファミドとドキソルビシンの組み合わせは、中等度から高度のリスクに分類される。遅発性の悪心・嘔吐には、デキサメタゾンとアプレピタントの継続が有効になる。予期性が生じた場合には、抗不安薬(ベンゾジアゼピン系)や、リラクセーション、行動療法が用いられる。看護としては、悪心の程度と持続を記録し、食事の工夫(少量頻回、冷たいもの、においを避ける、無理をしない)、環境の調整(においの元を除く、換気)、口腔ケア、そして次回に向けた制吐薬の調整を医師と相談することがある。「前回つらかった」という訴えを軽く扱わず、次回の計画に反映させることが、予期性を防ぐ最も有効な対応になる。
間違えやすい考え方
『適切な対応』を問う型で、誤肢が別の目的・有害な対応・治療の縮小である。予期性を成立させないという原則で切る。
5分で振り返る
①化学療法の悪心・嘔吐=急性(24時間以内)、遅発性(24時間以降)、予期性(次回の前に生じる)。②予期性は前回の体験の条件づけで生じ、制吐薬が効きにくい。③最善は初回から確実に予防すること(治療前の制吐薬投与)。④催吐性リスクに応じて組み合わせる。高度リスクでは5-HT3拮抗薬、NK1拮抗薬、デキサメタゾン、オランザピンの4剤併用が現在の標準になる(オランザピンは糖尿病で禁忌など、個々に調整する)。⑤予期性には抗不安薬とリラクセーションを用いる。⑥絶食は栄養と体力を損なう、空腹が悪心を強めることもある。⑦「前回つらかった」を次回の計画に反映させる。
1分チェック
- 「思い出すと気持ち悪い」は。→ 予期性の悪心・嘔吐。次回は治療前から制吐薬を投与する。
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