次の文を読み、問いに答えよ。Aさん(32歳、初産婦)は、夫と2人で暮らしている。骨盤位のために妊娠38週0日に予定帝王切開術で午前11時に男児を出産した。分娩時出血量は480mLであった。出生後、手術室で男児と面会をして「無事に生まれてきてくれてありがとう」と話した。帰室後、子宮底は臍高、硬度良好、悪露は赤色で20gであった。後陣痛と創部痛があり夜間に鎮痛薬を使用した。
帝王切開術後5日、診察の結果、明日退院することになった。A さんの乳房は 緊満しており、乳管は左右とも5、6本開通している。母児同室を行い、児の哺乳 の欲求に合わせて1日10 回の授乳を行っている。「母乳で育てたいと思っていま す。でもおっぱいが張ってつらいです。この子も上手に吸ってくれません」と看護 師に話した。 このときの看護師の説明で適切なのはどれか。
公式正答:2
解説
乳房が緊満し、児が上手に吸えないと訴える産褥5日の褥婦への説明を問う。「授乳前に乳輪を柔らかくしましょう」である。
この問題で問われていること
乳房緊満の機序から、対応を導けるか。
しくみから理解する
産褥3〜5日頃、乳汁の産生が本格化するのに伴い、乳房への血流とリンパ流も増え、乳房全体が張って熱感と痛みを伴う状態になる。これが乳房緊満になる。乳輪部まで硬く張ると、児が乳輪ごと深くくわえられず、乳頭だけを浅く吸う形になって、乳汁が出にくく、乳頭に傷もできやすい。したがって、授乳の前に乳輪を圧迫して柔らかくし(乳輪部を指で押して浮腫を移動させる方法など)、児がくわえやすい状態にすることが、直接の対応になる。少量の搾乳で乳輪の張りを和らげてから含ませる方法も用いられる。
選択肢ごとの確認
「授乳の回数を減らしましょう」は逆になる。乳汁は、排出されることで産生が促され、溜まると産生が抑えられる仕組みになっているが、緊満している状態で排出を減らせば、うっ滞が悪化し、乳腺炎につながる。緊満期には、むしろ児の欲求に応じて頻回に授乳することが対応になる。この褥婦は1日10回の授乳を行っており、回数は適切になる。
「授乳と授乳の間は乳房を温めましょう」も逆になる。緊満して熱感がある時期には、授乳の間は冷やして、血流と腫脹を抑える。温めるのは、乳汁の流れが悪く分泌を促したいとき、あるいは授乳の直前に短時間行う場合になる。熱感のある乳房を温め続ければ、うっ滞と炎症を悪化させる。
「乳房の緊満が強くなるのはこれからです」は誤った見通しになる。乳房緊満は産褥3〜5日頃に最も強く、その後は乳汁の産生と児の哺乳量が釣り合うにつれて和らいでいく。産褥5日の時点は、ピークかその直後にあたり、これから強くなると伝えるのは事実に反し、母乳育児への意欲をくじくことにもなる。
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混同しやすいポイント
誤肢は、「減らす」「温める」「これから悪化する」という、いずれも逆方向の指導になっている。乳房緊満は、うっ滞が本体であり、対応の原則は「出す」「冷やす」「くわえやすくする」になる。この3つを押さえていれば、すべて判断できる。母乳育児を希望する母親に対して、見通しを誤って伝えることの害も、あわせて考える。
理解を深める
乳房緊満への対応をまとめる。授乳前=乳輪を柔らかくする(圧迫、少量の搾乳)、蒸しタオルで短時間温めて乳管を開きやすくする方法もある。授乳中=深くくわえさせる(乳輪まで含ませる)、抱き方を変えて乳房のさまざまな部位から排出する(横抱き、脇抱き=フットボール抱き、添え乳)。授乳後=冷罨法で熱感と腫脹を和らげる。授乳の間=頻回に授乳する(3時間以上あけない)、うつ伏せを避ける、締めつけない下着を選ぶ。そして観察=発赤、硬結、圧痛、発熱があれば乳腺炎を疑う。うっ滞性乳腺炎は、乳汁のうっ滞が原因で、排乳を促すことが治療になる。感染性乳腺炎へ進むと、38℃以上の発熱、悪寒、強い局所の痛みを伴い、抗菌薬を要する。いずれの場合も、授乳を中止しないことが原則になる(乳汁を排出しないと悪化する)。この事例の褥婦は帝王切開術後であり、創部痛のために抱き方が制限されることも、うまく吸わせられない一因になりうる。創部を圧迫しない姿勢を一緒に見つけることも、支援に含まれる。
間違えやすい考え方
『適切な説明』を問う型で、誤肢がすべて逆方向の指導である。うっ滞という本体から、出す・冷やす・くわえやすくするで切る。
5分で振り返る
①乳房緊満は産褥3〜5日頃、乳汁産生と血流・リンパ流の増加により生じる。②乳輪が硬いと児が深くくわえられず、乳頭を浅く吸って傷ができる。③対応の原則は「出す・冷やす・くわえやすくする」。④授乳前は乳輪を圧迫または少量の搾乳で柔らかくする。⑤授乳の回数は減らさず頻回に(3時間以上あけない)。⑥授乳の間は冷罨法(温めるとうっ滞と炎症が悪化する)。⑦緊満のピークは産褥3〜5日で以後和らぐ。発赤・硬結・発熱があれば乳腺炎を疑い、授乳は中止しない。
1分チェック
- 乳房緊満で児が吸えないときは。→ 授乳前に乳輪を柔らかくする(深くくわえられるようにする)。
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