次の文を読み、問いに答えよ。Aさん(65歳、男性)は、妻と自営業を営んでおり、2人で暮らしている。2か月前に仕事で大きな失敗をし、謝罪と対応に追われ、あまり夜に眠れなくなり、食欲不振が続いている。1か月前から気分が落ち込み、仕事で妻から間違いを指摘されたことで自信をなくしていた。Aさんは死んでしまいたいと思い、夜に自宅でロープを使って自殺を図ろうとしたところを妻に見つけられた。妻に付き添われ、精神科病院を受診し、うつ病〈depression〉と診断された。受診当日に入院し、抗うつ薬の内服が開始された。Aさんは「生きていても仕方がない。どうせ誰も分かってくれない」と看護師に話した。
このときの看護師の対応で適切なのはどれか。
公式正答:4
解説
自殺を図って入院したうつ病の65歳男性が「生きていても仕方がない。どうせ誰も分かってくれない」と話した際の対応を問う。「Aさんがつらい状況にあることを私は心配しています」である。
この問題で問われていること
希死念慮を語る患者に、どう応じるかを判断できるか。
しくみから理解する
希死念慮を訴える患者への対応の基本は、その気持ちを否定せず、受け止め、関心を向け続けることになる。「私は心配しています」という言葉は、患者の状態を評価するのではなく、看護師自身の気持ちを主語にして伝えるもので、患者を追い詰めずに関わりを示せる。孤立感(誰も分かってくれない)に対して、「ここにあなたを気にかけている人がいる」という事実を返すことになる。これは、自殺の危険がある人への関わりで最も基本になる姿勢で、話を聞くこと、そして一人にしないことが具体的な対応になる。
選択肢ごとの確認
「生きていれば良いことがありますよ」は、安易な励ましになる。将来の見通しを持てないことが、うつ病の症状そのものであり、根拠のない楽観を示されても、患者は「分かってもらえない」と感じる。むしろ孤立感を深める。
「薬を飲むと数日で効いて楽になります」は、事実と異なる説明になる。抗うつ薬は、効果が現れるまでに通常2〜4週間を要する。数日で楽になると伝えれば、そうならなかったときに失望を招き、服薬の中断や絶望の深まりにつながる。また、この場面で求められているのは薬の説明ではなく、いまの気持ちへの応答になる。
「悲しいことが続くときは誰にでもあります」は、一般化によって患者の体験を軽く扱うことになる。「みんなそうだ」と言われれば、自分のつらさが特別なものとして受け止められていないと感じ、話す気持ちを閉ざす。
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混同しやすいポイント
誤肢は、励まし、事実と異なる保証、そして一般化になっている。いずれも、話題を早く終わらせる方向に働く。希死念慮を語られたとき、聞き手は不安になり、何とか気持ちを変えさせようとする言葉を選びやすい。しかし必要なのは、変えることではなく、聞き続けることになる。この設問は、その姿勢の違いを問うている。
理解を深める
自殺の危険がある人への対応の原則は、TALKの4つで整理される。Tell=心配していることを言葉で伝える。Ask=自殺について具体的に尋ねる(「死にたいと思っていますか」と直接聞くことは、自殺を促さない。むしろ話す機会になる)。Listen=絶望的な気持ちを、否定も評価もせずに聴く。Keep safe=安全を確保し、一人にしない。入院中の看護では、環境の安全(危険物の管理:ひも状のもの、刃物、ガラス、薬剤の管理)、観察の頻度、行動の把握、そして家族との連携が具体的な対応になる。とくに注意を要するのが、うつ病の回復期になる。意欲と行動する力が先に戻り、抑うつ気分と絶望感がまだ残っている時期には、自殺を実行する力を得てしまうため、危険が高まる。「元気になってきた」という見え方に安心せず、観察を続ける。この事例の患者は、入院当日で、自殺企図の直後であり、最も注意を要する時期にある。また、高齢の男性、身体的な不調(不眠、食欲不振)、そして仕事上の失敗という喪失体験は、いずれも自殺のリスク因子になる。
間違えやすい考え方
『適切な対応』を問う型で、誤肢が励まし・誤った保証・一般化である。聞き続ける姿勢で切る。
5分で振り返る
①希死念慮への対応の基本=否定せず、受け止め、関心を向け続ける。②「私は心配しています」は看護師自身を主語にして関わりを示す言葉。③TALKの原則=Tell(心配を伝える)、Ask(自殺について直接尋ねる)、Listen(聴く)、Keep safe(安全を確保し一人にしない)。④抗うつ薬の効果発現は2〜4週間。数日で楽になるとは言えない。⑤安易な励ましと一般化は孤立感を深める。⑥うつ病の回復期は意欲が先に戻るため自殺の危険が高まる。⑦リスク因子=自殺企図の既往、高齢の男性、不眠、喪失体験、社会的孤立。
1分チェック
- 希死念慮を語る患者には。→ 心配していることを、自分を主語にして伝える(否定も励ましもしない)。
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