次の文を読み、問いに答えよ。Aさん(65歳、男性)は、妻と自営業を営んでおり、2人で暮らしている。2か月前に仕事で大きな失敗をし、謝罪と対応に追われ、あまり夜に眠れなくなり、食欲不振が続いている。1か月前から気分が落ち込み、仕事で妻から間違いを指摘されたことで自信をなくしていた。Aさんは死んでしまいたいと思い、夜に自宅でロープを使って自殺を図ろうとしたところを妻に見つけられた。妻に付き添われ、精神科病院を受診し、うつ病〈depression〉と診断された。受診当日に入院し、抗うつ薬の内服が開始された。Aさんは「生きていても仕方がない。どうせ誰も分かってくれない」と看護師に話した。
A さんはその後しばらく会話をしたり、食事も少し食べられたりしていたが、 入院3日から、臥床したままで1日中全く動かず、昏迷状態になった。検査の結 果、軽度の脱水以外の異常はなかった。治療として修正型電気けいれん療法が開始 されることになり、実施後20 分でA さんは覚醒し、その後の観察中にけいれん発 作は認めなかった。実施後30 分、A さんは突然起き上がり興奮し、大きな声で 「仕事に行く」と言って病室から出ていこうとした。看護師が制止し、一緒に座って 話を聞いたところ、見当識障害、記憶障害、注意障害が認められた。 A さんの状態で正しいのはどれか。
公式正答:1
解説
修正型電気けいれん療法の実施後30分に、突然の興奮、見当識障害、記憶障害、注意障害を示した患者の状態を問う。せん妄である。
この問題で問われていること
急性の意識障害と、他の精神症状を区別できるか。
しくみから理解する
せん妄は、急性に発症する意識障害を土台とし、注意の障害、見当識の障害、記憶の障害、幻覚、興奮、そして症状の日内変動を伴う状態を指す。この事例では、治療の実施後30分という急激な発症、興奮、そして見当識・記憶・注意の3つの障害がそろっており、せん妄に該当する。電気けいれん療法の後には、一過性の意識の混濁と、それに伴う興奮(発作後せん妄)が生じることがあり、通常は数十分から数時間で自然に軽快する。加えて、この患者には軽度の脱水があり、これもせん妄を誘発する身体的な要因になる。
選択肢ごとの確認
躁状態では、意識は清明で、気分の高揚、観念奔逸、多弁、活動性の亢進、誇大的な考えが持続的にみられる。この事例では、見当識と注意の障害があり、意識が保たれていない。また、治療の直後に突然生じて、それまでは昏迷状態だった経過も、躁状態の発症の仕方と異なる。
不安発作(パニック発作)では、強い不安と恐怖に加えて、動悸、発汗、震え、息苦しさ、めまいといった身体症状が現れる。意識は清明で、見当識と記憶は保たれる。この事例の所見と合わない。
前向性健忘は、ある時点以降の新しい出来事を記憶できない状態を指す。電気けいれん療法の副作用として、前向性健忘と逆向性健忘が生じることは知られている。しかし前向性健忘だけでは、興奮、見当識障害、注意障害は説明できない。この事例では記憶障害は所見の一つにすぎず、全体を説明する状態名として適切でない。
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混同しやすいポイント
「記憶障害がある」という一語に引かれると、前向性健忘を選びやすい。しかし所見は3つ(見当識、記憶、注意)そろっており、加えて急な興奮がある。複数の所見を一つの状態名でまとめられるかを問う設問になる。せん妄の定義に、注意の障害と意識の障害が含まれることを知っていれば、選べる。誤肢は、意識が清明である状態と、所見の一部しか説明しない状態で構成されている。
理解を深める
修正型電気けいれん療法は、麻酔薬と筋弛緩薬を用いて、けいれんによる身体の損傷を防ぎながら行う。重症のうつ病、とくに昏迷、強い希死念慮、拒食による身体的な危機、そして薬物療法が無効または使えない場合に適応となる。この事例の患者は、昏迷状態で摂食できず脱水を生じており、適応にあたる。効果の発現が薬物療法より速いことが利点になる。副作用には、頭痛、筋肉痛、悪心、健忘(前向性・逆向性)、そして治療後の一過性のせん妄がある。看護では、実施前の絶食と義歯の除去、実施後の意識レベルとバイタルサインの観察、転倒の防止、そして覚醒時の混乱への対応が求められる。せん妄が生じた場合の対応は、まず安全の確保(転倒、転落、離院の防止)、静かで見当識の手がかりのある環境の調整(時計、カレンダー、日中の採光)、身体的な要因の是正(脱水、電解質、感染、疼痛、薬剤)、そして落ち着いた声での短い説明の繰り返しになる。抑制は最後の手段で、必要な場合も最小限、最短にとどめる。せん妄は「治る意識障害」であり、原因を取り除けば戻ることを前提に関わる。
間違えやすい考え方
状態名を問う型で、誤肢が意識清明な状態と所見の一部しか説明しないものである。所見をまとめて一つの状態名にする。
5分で振り返る
①せん妄=急性に発症する意識障害を土台とし、注意・見当識・記憶の障害、幻覚、興奮、日内変動を伴う。②電気けいれん療法後には一過性のせん妄が生じることがある(通常は数時間で軽快)。③脱水はせん妄の誘発因子。④躁状態は意識が清明で気分の高揚が持続する。⑤前向性健忘は記憶だけの障害で、興奮と見当識障害を説明しない。⑥修正型電気けいれん療法の適応=重症うつ病、昏迷、強い希死念慮、拒食、薬物療法が無効または使えない場合。⑦せん妄への対応=安全の確保、環境の調整、身体的要因の是正、抑制は最小限。
1分チェック
- 治療後の急な興奮+見当識・記憶・注意の障害は。→ せん妄(急性の意識障害)。
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