次の文を読み、問いに答えよ。Aさん(73歳、女性)は1人で暮らしており、脳梗塞〈cerebralinfarction〉で入院した。Aさんは左半身に麻痺があり、認知機能障害はない。4点杖を使用して歩行が可能となり、住宅改修をして自宅に退院した。退院後は、降圧薬と抗血栓薬が処方され、服薬管理と健康管理の目的で訪問看護を週1回、調理と買い物代行の目的で訪問介護を週1回利用している。Aさんは「昨日、退院して初めて1人で買い物に行ったら転びそうになって、横にいた人に支えてもらったんです」と訪問看護師に話した。
退院から2か月後、A さんは杖歩行が安定し、時間をかけて調理や買い物を自 分で行うようになった。看護師が訪問したとき、A さんから「最近トイレに間に合 わずに尿が漏れてしまうことがあるんです。恥ずかしいので排泄だけは人の世話に なりたくないんです。良い方法があれば教えてください」と相談された。 このときの訪問看護師のA さんへの助言で最も適切なのはどれか。
公式正答:4
解説
杖歩行が安定した73歳女性から「トイレに間に合わずに尿が漏れる。排泄だけは人の世話になりたくない」と相談された場面での対応を問う。「ご自分の排尿間隔に合わせてトイレに行きましょう」である。
この問題で問われていること
本人の希望(自立の維持)に沿いながら、症状の機序に合った方法を選べるか。
しくみから理解する
「トイレに間に合わない」という訴えは、尿意を感じてから排尿までの時間が短い切迫性尿失禁、あるいは移動に時間がかかることによる機能性尿失禁を示唆する。この事例では、脳梗塞後で歩行に時間がかかり、かつ排尿の切迫がある状態と考えられる。対応として、自分の排尿間隔を把握し、尿意が来る前に計画的にトイレへ行けば、間に合わないという事態を減らせる。これは時間排尿(定時排尿)の考え方で、本人が自分で管理でき、排泄の自立を保ったまま実行できる。本人の「人の世話になりたくない」という希望に合致する点も重要になる。
選択肢ごとの確認
オムツの使用は、本人が明確に「排泄だけは人の世話になりたくない」と述べている希望に反する。またオムツを使うと排尿の自立が失われやすく、皮膚障害や尿路感染のリスクも増す。他の方法を試みる前に選ぶものではない。
ポータブルトイレは、夜間や移動が困難な場合に有効な手段である。しかしこの事例では杖歩行が安定し、調理や買い物も自分で行えるようになっている。まずトイレでの排泄を続けられる方法を検討するのが順序になる。
夕食後の水分制限は、夜間頻尿への一般的な助言だが、この事例の訴えは夜間に限定されていない。また高齢者で水分を控えることは脱水を招き、脳梗塞の既往がある人では血液の濃縮により再発のリスクを高める。抗血栓薬を服用していても脱水は危険であり、安易に勧められない。
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混同しやすいポイント
本人の希望が設問文に明示されている点が判断の軸になる。「排泄だけは人の世話になりたくない」という言葉は、自立を保ちたいという意思の表明であり、オムツやポータブルトイレはそれに反する方向になる。加えて、脳梗塞の既往がある人に水分制限を勧める危険も押さえる。希望に沿い、かつ機序に合った方法を選ぶ、という二重の条件を満たすのが時間排尿になる。
理解を深める
在宅での排尿の支援では、まず排尿日誌をつけてもらうことから始める。排尿の時刻、量、失禁の有無と状況、水分摂取の時刻と量を数日間記録すると、排尿の間隔、夜間の回数、失禁が起こる場面が具体的に見える。これをもとに、トイレへ行く時間を決める(間隔より少し短く設定する)、骨盤底筋訓練を行う、衣類を着脱しやすいものに変える、トイレまでの経路を短く安全にする(手すり、照明、障害物の除去)、といった対策を組み立てる。切迫性尿失禁に対しては、膀胱訓練(尿意を感じてから少し我慢して間隔を延ばす)や、抗コリン薬・β3受容体作動薬の薬物療法もあるが、抗コリン薬は高齢者では口渇、便秘、尿閉、認知機能への影響に注意が要る。排泄の問題は、本人が最も相談しにくい領域の一つであり、この事例のように本人から話してくれたこと自体が信頼関係の表れになる。恥ずかしさに配慮しつつ、具体的で実行できる方法を一緒に考えることが、自立の維持と外出の継続につながる。
間違えやすい考え方
『適切な対応』を問う型で、誤肢が本人の希望に反するものと、既往を考えると危険なもので構成されている。希望と機序の両方で切る。
5分で振り返る
①「間に合わない」は切迫性尿失禁や機能性尿失禁を示唆する。②排尿間隔を把握し、尿意の前にトイレへ行く時間排尿から始める。③本人が「人の世話になりたくない」と言っている希望に沿う。④オムツやポータブルトイレは自立を損なう方向で、先に選ばない。⑤脳梗塞の既往がある人への水分制限は脱水と再発のリスク。⑥排尿日誌で客観的に把握する。⑦骨盤底筋訓練、衣類と経路の工夫も併せる。
1分チェック
- トイレに間に合わない人への最初の対応は。→ 排尿間隔を把握し、尿意の前に計画的にトイレへ行く(時間排尿)。
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