次の文を読み、問いに答えよ。Aさん(87歳、女性)は1人で暮らしている。難聴のため補聴器を使用している。自宅で転倒して痛みで起き上がれなくなり、救急搬送され入院した。搬送先の病院で右大腿骨頸部骨折femoralneckfractureと診断され、全身麻酔下で人工骨頭置換術を受けた。術後は前腕部に点滴静脈内注射と右大腿の創部に吸引式ドレーンが一本挿入されている。手術直後の検査所見:赤血球410万/μL、白血球7800/μL、Hb12.0g/dL、総蛋白6.5g/dL、アルブミン4.0g/dL、尿素窒素20mg/dL、Na145mEq/L、K3.8mEq/L。術後のドレーン出血量は少量である。創部痛に対して非ステロイド性抗炎症薬の坐薬と内服が処方され、手術当日の21時に坐薬を使用した。
術後2週。A さんは杖歩行の練習をしている。見守りをする看護師に「早く家に 帰りたいけど、また転びそうで怖いし、元のように歩ける自信がない」と話した。 A さんへの声かけで最も適切なのはどれか。
公式正答:3
解説
術後2週、杖歩行の練習をしている87歳女性が「早く家に帰りたいけど、また転びそうで怖いし、元のように歩ける自信がない」と話した場面での声かけを問う。「少しずつ歩けるようになってきていますよ」である。
この問題で問われていること
訴えの中身(自信のなさ)に応える言葉を選べるか。
しくみから理解する
この患者が語っているのは、転倒への恐怖と、回復への自信のなさである。これは自己効力感の低下であり、リハビリテーションへの意欲と実際の回復を左右する。自己効力感を高める最も強い要因は成功体験であり、本人が自分の進歩に気づけるように、具体的な変化を言葉にして伝えることが有効になる。「少しずつ歩けるようになってきている」という言葉は、事実に基づく肯定的なフィードバックであり、本人が自分の回復を実感する助けになる。まず気持ちを受け止め、根拠のある事実を返す、という順序に沿った対応である。
選択肢ごとの確認
リハビリテーションの回数を増やすことは、本人の訴えに応えていない。むしろ「もっと頑張れ」というメッセージになり、今できていないと責められたように感じさせうる。また回数の決定は理学療法士や医師との相談によるもので、看護師が単独で提案する内容でもない。
カルシウムの摂取は骨粗鬆症の予防として大切だが、今この人が語っている不安に応えていない。話題をそらす形になり、聞いてもらえなかったという体験を残す。
退院先を施設にするという提案は、本人が「早く家に帰りたい」と述べている希望を否定するものである。自宅へ帰りたいという意思が示されている段階で、それを検討せずに施設を持ち出すことは、本人の意思決定の機会を奪う。
もっと詳しく読む
混同しやすいポイント
誤肢はいずれも、それ自体は看護として行われる内容である。判断の軸は、本人が今何を語っているかにある。訴えは「怖い」「自信がない」という感情であり、それに応えるのは、事実に基づいて回復を伝える言葉になる。感情の訴えに、行動の指示や別の話題で返すと、受け止められなかったという体験になる。
理解を深める
転倒後症候群という言葉がある。転倒を経験した人が、再び転ぶことへの恐怖から活動を控え、その結果として筋力とバランスが低下し、さらに転倒しやすくなるという悪循環を指す。この事例の患者は、まさにその入口にいる。恐怖を否定せず(「大丈夫、転びませんよ」と根拠なく打ち消さない)、実際に安全に動ける経験を積み重ねることが、恐怖の軽減につながる。具体的には、環境を整えて成功できる条件をつくる、できたことをその場で具体的に伝える、同じような経過をたどった人の話を伝える(代理経験)、というアプローチがある。退院に向けては、住宅改修、福祉用具、訪問リハビリテーション、通所リハビリテーション、緊急通報装置、地域の見守りといった資源を組み合わせて、本人の「家に帰りたい」を実現できるかを一緒に検討する。87歳の独居という条件は、確かに調整を要するが、それは本人の希望を否定する理由ではなく、支える体制を考える出発点になる。
間違えやすい考え方
『最も適切な声かけ』を問う型で、誤肢がいずれも別の場面では適切な内容である。訴えの中身(感情)に応えるかで切る。
5分で振り返る
①訴えの中身は転倒への恐怖と自信のなさ(自己効力感の低下)。②自己効力感を高める最大の要因は成功体験、それを言葉にして伝える。③「もっと頑張れ」「別の話題」「希望の否定」は訴えに応えていない。④転倒後症候群=恐怖→活動の低下→筋力低下→さらに転倒しやすい。⑤恐怖を根拠なく打ち消さない。⑥「家に帰りたい」を出発点に、資源を組み合わせて検討する。
1分チェック
- 自信がないと語る人への声かけは。→ 事実に基づいて回復を具体的に伝える(成功体験の言語化)。
この問題に対応する教材の確認中です。