次の文を読み、問いに答えよ。Aさん(76歳、男性)は妻(72歳)と2人で暮らしている。ベッドからトイレに起きようとしたところ右上下肢にしびれと脱力感があり、動けなくなったため救急車で来院した。頭部CTで左中大脳動脈領域のラクナ梗塞〈lacunarinfarction〉と診断され、緊急入院し血栓溶解療法が施行された。既往歴:53歳で高血圧症hypertensionと診断され内服治療を継続している。生活歴:60歳まで食品会社に勤務していた。入院時の身体所見:身長168cm、体重65kg、体温37.2℃、呼吸数20/分、脈拍78/分、整、血圧210/88mmHg、経皮的動脈血酸素飽和度〈SpO2〉97%(roomair)、右上下肢麻痺を認めた。入院時の検査所見:白血球3,600/μL、赤血球420万/μL、Hb11.2g/dL、総蛋白6.2g/dL、アルブミン3.6g/dL、空腹時血糖108mg/dL、CRP0.1mg/dL。
入院5日。A さんは座位訓練の後、車椅子に座って食事を摂取することになっ た。食事動作は自助具を使用すれば少しずつ自分で摂取できるようになったが、時 間が経過すると上体が右側に傾くため、体幹の右側にクッションを入れて食事をし ている。 A さんが安定して食事ができるための援助で適切なのはどれか。
公式正答:3
解説
右片麻痺のある76歳男性が、車椅子で食事をする際に上体が右側に傾くため体幹の右にクッションを入れている場面で、安定して食事ができるための援助を問う。背部にタオルを入れ軽く前傾姿勢にすることである。
この問題で問われていること
座位が安定する条件を、重心と支持基底面の関係から考えられるか。
しくみから理解する
座位で上体が安定するには、重心が支持基底面の中に収まっている必要がある。車椅子の背もたれに寄りかかった後傾姿勢では、重心が後方に移り、体幹を支える筋が働きにくくなって、麻痺側へ傾きやすい。背部にタオルを入れて軽く前傾姿勢をとると、重心が前方の支持基底面(殿部と足底)の上に乗り、体幹の抗重力筋が働きやすくなって座位が安定する。さらに前傾姿勢は、頸部が軽度前屈する姿勢につながり、嚥下の面でも誤嚥を防ぐ有利な姿勢になる。食事動作としても、口までの距離が縮まり、自力での摂取がしやすくなる。
選択肢ごとの確認
座位時間を短縮すると、座位保持の能力を高める機会が減り、食事の時間も足りなくなる。この患者は自助具を使って少しずつ自分で食べられるようになってきており、時間をかけて食べることを支える方向が適切になる。
テーブルを高くすると、上肢を挙上して食事することになり、肩と体幹への負担が増して、かえって姿勢が崩れやすくなる。テーブルの高さは、肘が軽く曲がり前腕を乗せられる程度(およそ肘の高さ)が目安で、体幹を支える助けにもなる。
自分で左側に重心を傾けるよう指導しても、麻痺により体幹のコントロールが低下している状態では、意識だけで持続的に姿勢を保つことは難しい。また左へ傾ければよいという問題ではなく、正中で安定させることが目標になる。姿勢は環境(座面、背もたれ、足底の接地、テーブル)を整えることで支える。
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混同しやすいポイント
『クッションで支える』という現在の対応が、根本の姿勢の問題を解決していない点に気づけるかが要点になる。傾きを横から止めるのではなく、重心の位置を前方へ戻して自分で支えられるようにする、という発想の転換である。姿勢の安定は、意識や努力ではなく、環境と重心の関係で決まる。
理解を深める
車椅子での食事姿勢では、いくつかの条件を確認する。足底が床またはフットレストにしっかり接地しているか(宙に浮いていると骨盤が不安定になる)。殿部が座面の奥まで入り、骨盤が起きているか(前方にずれた仙骨座りでは体幹が崩れ、嚥下にも不利になる)。テーブルの高さと距離が適切か。頸部が過度に伸展していないか(伸展すると気道が開いて誤嚥しやすい)。麻痺側の上肢がだらりと下がっていないか(肩関節の亜脱臼と疼痛の原因になるため、テーブルやクッションで支える)。この事例のように、姿勢が保てるようになってきた段階では、少しずつ支えを減らして自力での保持を促す。食事は、栄養の摂取であると同時に、自分で食べられるという実感を通じた回復への動機づけでもある。自助具(太柄のスプーン、すべり止めマット、片手で使える食器)の活用は、作業療法士と相談しながら選ぶ。
間違えやすい考え方
姿勢の援助を問う型で、誤肢が時間の短縮・高さの誤り・本人の努力への依存で構成されている。重心と支持基底面で切る。
5分で振り返る
①座位の安定は重心が支持基底面に収まること。②後傾すると体幹の筋が働かず麻痺側へ傾く。③背部にタオルを入れて軽く前傾させると抗重力筋が働き安定する。④前傾は頸部の軽度前屈につながり誤嚥の予防にもなる。⑤足底の接地、骨盤を起こす、テーブルは肘の高さ。⑥麻痺側上肢を支えて肩の亜脱臼を防ぐ。⑦意識や努力ではなく環境で支える。
1分チェック
- 座位で傾く人をどう安定させるか。→ 軽く前傾させて重心を支持基底面に乗せる(横から支えるのではなく)。
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