A 君(15 歳、男子)は、蒸し暑い夏の午後に行われたサッカーの試合に出ていた。 A 君は試合中に大量の汗をかいて、気分が悪くなったので多量の水道水を飲み、 日陰で休んでいたが、突然、意識消失して倒れた。このときのA 君の細胞外液の ナトリウムイオン濃度と水分量の正常時に対する割合を図に示す。 このときのA 君の体液の状態で正しいのはどれか。
公式正答:3
解説
蒸し暑い日に大量に発汗した後、多量の水道水を飲んで意識消失した15歳男子の細胞外液のナトリウム濃度と水分量を図に示した状態について問う。循環血液量は減少している、である。
この問題で問われていること
発汗と水分補給の組み合わせが、体液の分布に何をもたらすかを追えるか。
しくみから理解する
大量の発汗では、水とナトリウムの両方が失われる。ここに水だけを多量に補給すると、失われたナトリウムが補われないまま水が加わるため、細胞外液のナトリウム濃度が低下する(低ナトリウム血症)。細胞外液の浸透圧が下がると、水は浸透圧の高い細胞内へ移動する。その結果、細胞外液(血漿を含む)の量は増えず、むしろ細胞内へ水が移ることで循環血液量は減少する。脳細胞が浮腫を起こせば、頭痛、悪心、意識障害、けいれんを生じる。これが運動関連低ナトリウム血症(いわゆる水中毒)の病態で、意識消失の説明になる。
選択肢ごとの確認
細胞内液は増加している。細胞外液の浸透圧が低下したため、水が細胞内へ移動するからである。減少ではなく増加になる。脳細胞の浮腫が意識障害の原因になる。
血漿浸透圧は低下している。ナトリウムは血漿浸透圧の主要な決定因子であり、その濃度が下がれば浸透圧も下がる。上昇ではなく低下になる。
ヘマトクリットは上昇する。血漿の水分が細胞内(赤血球内を含む)へ移動し、また循環血漿量が減るため、相対的に赤血球の割合が高まる。低下ではなく上昇になる。ただし赤血球自体も膨化するため、変化の程度は病態により異なる。
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混同しやすいポイント
誤肢3つがすべて『方向が逆』という型で作られている。水の移動の方向(浸透圧の低い側から高い側へ、つまり細胞外から細胞内へ)を確定すれば、細胞内液は増える、浸透圧は下がる、と順に導ける。まず「何がどちらへ動くか」を決めることが、この種の設問を解く鍵になる。
理解を深める
熱中症の予防と対応では、水分だけでなく電解質の補給が重要になる。大量に発汗した場合は、水だけを飲むと低ナトリウム血症を招くため、経口補水液やスポーツドリンク、あるいは水と塩分を併せて摂る。運動時には、こまめに少量ずつ摂る。ただし飲む量は、汗で失った量に見合う範囲にとどめる。長時間の運動では、喪失量や口渇を超えて飲むことが運動関連低ナトリウム血症の主な危険因子で、重篤な転帰につながることが知られている。「たくさん飲めば安全」ではなく、失った分を、水だけでなく塩分とともに補うことが要点になる。熱中症の重症度は、Ⅰ度(めまい、立ちくらみ、こむら返り、大量の発汗)、Ⅱ度(頭痛、嘔吐、倦怠感、集中力の低下)、Ⅲ度(意識障害、けいれん、高体温、肝腎機能障害)に分けられ、Ⅲ度は入院加療を要する。現場での対応は、涼しい場所へ移す、衣服を緩める、体を冷やす(頸部、腋窩、鼠径部の冷却、水をかけて風を送る)、意識があり吐き気がなければ経口補水液を飲ませる、意識障害があれば飲ませずに直ちに救急要請する、である。低ナトリウム血症の補正は、急速に行うと浸透圧性脱髄症候群を起こすため、慎重に行われる。この事例のように、水分を摂っていたにもかかわらず倒れることがある点は、指導の際に伝えるべき重要な事実になる。
間違えやすい考え方
体液の移動を問う型で、誤肢がすべて方向の逆である。浸透圧と水の移動方向を確定して切る。
5分で振り返る
①大量発汗で水とナトリウムを失う。水だけ補給すると細胞外液のナトリウム濃度が低下する。②細胞外液の浸透圧が下がり、水は細胞内へ移動する。③細胞内液は増加、血漿浸透圧は低下、循環血液量は減少、ヘマトクリットは上昇。④脳細胞の浮腫で頭痛・悪心・意識障害・けいれん。⑤予防は水だけでなく電解質も補給する(経口補水液)。⑥意識障害があれば飲ませずに救急要請。⑦低ナトリウム血症の補正は急速に行わない。
1分チェック
- 発汗後に水だけを大量に飲むとどうなるか。→ 低ナトリウム血症で水が細胞内へ移り、循環血液量は減少する。
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