次の文を読み、問いに答えよ。Aさん(88歳、男性)は妻(82歳)と2人で暮らしている。息子2人は独立して生活している。要介護度は5で、エアマットレスを使用している。食事は妻の介助で1日1回ペースト食を食べているがむせることもあり、食事が全くとれない日もある。排泄はオムツを使用し、毎日訪問介護サービスを利用して、オムツ交換と陰部洗浄を受けている。訪問看護は週3回利用している。Aさんは妻が話しかけると返事はするが自発的な会話はない。着替えをするときに上肢を動かすと苦痛表情がある。
A さんは声をかけても返答したり目を開けたりすることもなく、穏やかな表情 で眠っていることが多くなった。A さんの妻は「夫は話しかけても何も答えてくれ ないので、どうしたらよいか分かりません」と訪問看護師に話した。 このときの妻への声かけで適切なのはどれか。
公式正答:1
解説
声をかけても反応せず穏やかな表情で眠っていることが多くなった夫について、妻から「話しかけても何も答えてくれないのでどうしたらよいか分からない」と相談された場面での声かけを問う。「Aさんの体にできるだけ触れるようにしましょう」である。
この問題で問われていること
反応がなくなった人への関わり方を、残る感覚に基づいて助言できるか。
しくみから理解する
意識レベルが低下しても、聴覚と触覚は最後まで保たれる可能性があるとされる。反応のない終末期の患者の一部で、聴覚に対する脳の反応が保たれていたという報告があるが、意識を伴って聞こえているかどうかや、感覚が失われる順序が定まっているかまでは分かっていない。それでも、返事がなくても声が届いている可能性、触れられていることを感じている可能性はある。妻が困っているのは「どうしたらよいか分からない」という点であり、必要なのは、今でもできる関わり方を具体的に示すことである。手を握る、体をさする、額に触れるといった行為は、本人に安らぎをもたらすと同時に、妻自身が「何かできている」と感じられる。看取りの時期に家族が後悔を残さないためにも、関わり続けられる方法を伝えることには大きな意味がある。
選択肢ごとの確認
「苦痛を感じることはありません」と断定することはできない。意識レベルが低下していても、痛みや不快を感じている可能性はあり、表情、体の緊張、呼吸の変化、脈拍の上昇といった非言語的な指標で評価し、必要な緩和を行う。断定は観察を止めることにもつながる。
静かにするよう促すことは、妻の関わりたい気持ちを遠ざける。声をかけることに意味があると伝えるほうが、この場面では適切になる。安静が必要という医学的な理由もない。
「世話を頑張りましょう」という励ましは、既に長く介護を続けてきた82歳の妻に、さらに頑張ることを求める言葉になる。今困っているのは体力や意欲ではなく、どう関わればよいか分からないという点であり、答えになっていない。
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混同しやすいポイント
誤肢は、断定する、関わりを遠ざける、励ますという3つの方向で、いずれも妻の問いに答えていない。妻が求めているのは「どうしたらよいか」という具体的な方法である。訴えの中身に直接応える選択肢を選ぶ、という原則がここでも当てはまる。
理解を深める
臨死期の家族への支援では、いくつかの伝え方がある。聴覚は最後まで保たれる可能性があるとされるので、そばで名前を呼び、これまでの感謝や思い出を話しかけてよいこと。手を握る、体をさするといった触れる関わりが、本人にも家族にも意味を持つこと。呼吸のリズムが変わったり、下顎で呼吸をしたり、ゴロゴロという音(死前喘鳴)が聞こえたりするのは自然な経過で、必ずしも苦しんでいるわけではないこと。口腔の乾燥には、湿らせた綿棒で口を潤すことができ、これも家族が行える関わりであること。無理に食べさせたり水分を入れたりすることは、誤嚥や苦痛につながる場合があること。また、家族自身の休息と食事にも目を向ける。看取りの後には、亡くなったことを確認する手順(まず訪問看護師か医師に連絡し、救急車は呼ばない)を、あらかじめ具体的に伝えておく。グリーフケアとして、看取りの後に訪問して家族の話を聴く機会を持つ事業所も多い。
間違えやすい考え方
『適切な声かけ』を問う型で、誤肢が断定・遠ざけ・励ましである。訴えの中身(どうしたらよいか)に応えるかで切る。
5分で振り返る
①意識レベルが低下しても、聴覚と触覚は最後まで保たれる可能性があるとされる(意識を伴う知覚までは分かっていない)。②手を握る、体をさする関わりを具体的に伝える。③家族が「何かできている」と感じられることに意味がある。④苦痛がないと断定しない(表情・緊張・呼吸で評価する)。⑤死前喘鳴や下顎呼吸は自然な経過で、必ずしも苦しんでいない。⑥無理な経口摂取は誤嚥と苦痛を招く。⑦亡くなったときは救急車ではなく訪問看護師か医師へ連絡。
1分チェック
- 反応がなくなった人に家族はどう関わればよいか。→ 声をかけ、体に触れる(聴覚と触覚は最後まで保たれる可能性があるとされる)。
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