次の文を読み、問いに答えよ。Aさん(55歳、男性、会社員)。激しい胸痛で救急搬送され、心筋梗塞〈myocardialinfarction〉と診断された。冠動脈バイパス術〈CABG〉を受け、ICUに入室した。手術中の輸液量2,700mL、輸血量400mL、出血量280mL、尿量200mLであった。手術から6時間が経過し、人工呼吸器が装着され、心囊ドレーンと、胸腔ドレーンが留置中である。身体所見:体温37.1℃、脈拍63/分、血圧126/62mmHg、末梢冷感はなし。肺野全体に湿性ラ音を聴取、漿液性の気道分泌物を認める。検査所見:吸入酸素濃度40%、動脈血酸素分圧〈PaO2〉95Torr、動脈血炭酸ガス分圧〈PaCO2〉36Torr、中心静脈圧12cmH2O、心エコー検査では左室駆出率〈LVEF〉45%、心囊液の貯留なし。胸部エックス線写真では両肺野の広範に透過性の低下を認める。
A さんに起こっている可能性が高い合併症はどれか。
公式正答:3
解説
冠動脈バイパス術後6時間、輸液2,700mLと輸血400mLに対し出血280mL・尿量200mL、肺野全体に湿性ラ音、漿液性の気道分泌物、中心静脈圧12cmH2O、左室駆出率45%、胸部エックス線で両肺野の広範な透過性低下という所見から、起こっている合併症を問う。肺水腫である。
この問題で問われていること
水分出納と身体所見、画像所見を統合して病態を導けるか。
しくみから理解する
水分出納を計算すると、投与は輸液2,700mL+輸血400mL=3,100mL、排出は出血280mL+尿量200mL=480mLで、差し引き2,600mL以上が体内に貯留している(不感蒸泄を考慮しても大きな正の出納になる)。中心静脈圧12cmH2Oは上昇しており、循環血液量が過剰であることを示す。左室駆出率45%と心機能も低下しており、増えた血液を送り出しきれない。その結果、肺静脈圧が上がって血漿成分が肺胞へ漏れ出す。これが肺水腫であり、肺野全体の湿性ラ音、漿液性の気道分泌物、胸部エックス線での両肺野の広範な透過性低下という所見と合致する。
選択肢ごとの確認
低心拍出量症候群では、心拍出量の低下により末梢の循環が悪くなる。四肢の冷感、皮膚の蒼白、尿量の減少、代謝性アシドーシス、意識レベルの低下、血圧低下、頻脈がみられる。この事例では末梢冷感がなく、血圧126/62mmHg、脈拍63/分と安定しており、合致しない。
心タンポナーデは、心囊内に液体が貯留して心臓が拡張できなくなる病態である。心エコー検査で心囊液の貯留なしと明記されており、除外される。心タンポナーデでは、中心静脈圧の上昇、血圧低下、心音の減弱(ベックの三徴)、奇脈、頻脈がみられ、心囊ドレーンの排液が急に止まることが契機になりうる。
無気肺では、肺の一部が虚脱して含気が失われる。画像では、限局した透過性の低下と、患側への縦隔の偏位、横隔膜の挙上がみられる。この事例は両肺野の広範な透過性低下であり、分布が異なる。また無気肺では呼吸音が減弱するのに対し、この事例は湿性ラ音が聴取されている。
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混同しやすいポイント
4つの選択肢はいずれも心臓手術後に起こりうる合併症であり、所見を一つずつ照合して除外する作業が必要になる。除外の根拠は事例文に明示されている。末梢冷感なし(低心拍出量症候群を否定)、心囊液の貯留なし(心タンポナーデを否定)、両肺野の広範な透過性低下と湿性ラ音(無気肺ではなく肺水腫)。水分出納を実際に計算することが、病態の理解につながる。
理解を深める
心臓手術後の管理では、水分出納の把握が中心的な役割を果たす。人工心肺を使用した場合は、血液が異物に触れることで炎症反応が起こり、血管透過性が亢進して間質へ水分が移行する(サードスペースへの移行)。術後は水分が貯留しやすく、術後2〜3日に利尿期を迎えて排出されるという経過をたどる。肺水腫への対応は、酸素化の維持(人工呼吸器の設定、呼気終末陽圧の調整)、利尿薬による水分の除去、心機能の補助(強心薬)、輸液量の調整である。看護では、水分出納の正確な記録、体重の測定、中心静脈圧と血行動態の観察、呼吸音と気道分泌物の性状、酸素化の指標、胸部エックス線所見の確認を行う。気道分泌物が泡沫状でピンク色を呈する場合は、肺水腫が進行している徴候になる。ドレーンの管理では、排液量と性状、閉塞の有無を観察し、急な減少や増加を報告する。
間違えやすい考え方
事例から病態を推定する型で、誤肢がすべて心臓手術後の合併症である。所見を一つずつ照合して除外する。
5分で振り返る
①水分出納を計算する(投与3,100mL、排出480mLで大きな正の出納)。②中心静脈圧12cmH2Oは上昇、左室駆出率45%は低下。③肺静脈圧の上昇で血漿が肺胞へ漏れる=肺水腫。④低心拍出量症候群は末梢冷感・尿量減少・血圧低下(この事例は否定)。⑤心タンポナーデは心囊液の貯留(エコーで否定)。⑥無気肺は限局した透過性低下と呼吸音減弱。⑦泡沫状ピンク色の分泌物は肺水腫の進行。
1分チェック
- 術後の正の水分出納+中心静脈圧上昇+両肺野の湿性ラ音は。→ 肺水腫。
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