次の文を読み、問いに答えよ。Aさん(55歳、男性、会社員)。激しい胸痛で救急搬送され、心筋梗塞〈myocardialinfarction〉と診断された。冠動脈バイパス術〈CABG〉を受け、ICUに入室した。手術中の輸液量2,700mL、輸血量400mL、出血量280mL、尿量200mLであった。手術から6時間が経過し、人工呼吸器が装着され、心囊ドレーンと、胸腔ドレーンが留置中である。身体所見:体温37.1℃、脈拍63/分、血圧126/62mmHg、末梢冷感はなし。肺野全体に湿性ラ音を聴取、漿液性の気道分泌物を認める。検査所見:吸入酸素濃度40%、動脈血酸素分圧〈PaO2〉95Torr、動脈血炭酸ガス分圧〈PaCO2〉36Torr、中心静脈圧12cmH2O、心エコー検査では左室駆出率〈LVEF〉45%、心囊液の貯留なし。胸部エックス線写真では両肺野の広範に透過性の低下を認める。
術後3日、心臓リハビリテーションが開始された。 A さんは「傷の痛みはありますが、血管をつないだから安心ですね。落ちついた ら、家族と温泉に行きたいです」と看護師に話した。 A さんの生活指導で適切なのはどれか。
公式正答:3
解説
冠動脈バイパス術後3日、心臓リハビリテーションが開始され「落ちついたら家族と温泉に行きたい」と話す患者への生活指導を問う。「食後1時間以上経過してから入浴しましょう」である。
この問題で問われていること
入浴が循環に与える負荷を、時間・温度・水位の3点から説明できるか。
しくみから理解する
食後は、消化のために腹部内臓へ血液が集まり、心拍出量の配分が変わる。この状態で入浴すると、温熱による末梢血管の拡張が加わって、血圧の低下と心臓への負担が生じやすい。したがって、食後すぐの入浴は避け、1時間以上あけることが勧められる。同じ理由で、飲酒後の入浴も避ける。この助言は、入浴を禁じるのではなく、安全に楽しめる条件を伝えるものであり、「温泉に行きたい」という患者の希望に沿っている。
選択肢ごとの確認
肩まで湯に浸かると、水圧により静脈還流が増えて心臓への前負荷が高まり、心負荷が増す。心疾患のある人には、半身浴(みぞおちから下)が勧められる。水位を下げることで、水圧による負荷を減らせる。
43℃以上の高温浴は、交感神経を刺激して血圧と心拍数を上げ、心筋の酸素消費量を増やす。入浴直後の血圧上昇と、その後の血管拡張による血圧低下という変動も大きくなる。適温は40℃前後(38〜41℃程度)で、10分以内が目安になる。
入浴を控えるよう指導する必要はない。心機能が安定していれば入浴は可能であり、清潔の保持と気分の転換という点でも意義がある。左室駆出率45%はやや低下しているが、条件を整えれば入浴できる。生活の楽しみを一律に禁じることは、その人の生活の質を損なう。
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混同しやすいポイント
誤肢は、負荷を増やす方向(水位・温度)と、一律に禁じる方向で構成されている。心疾患のある人への生活指導の原則は、禁じることではなく、安全に行える条件を伝えることにある。入浴については、時間(食後1時間以上、長湯を避ける)、温度(40℃前後)、水位(半身浴)、環境(脱衣所と浴室を暖める)の4点で整理できる。
理解を深める
心臓リハビリテーションは、運動療法だけでなく、患者教育、栄養指導、禁煙支援、心理的支援を含む包括的なプログラムである。目的は、身体機能の回復、再発の予防、生活の質の向上、そして社会復帰にある。生活指導では、入浴のほか、排便(怒責を避けるため便秘を防ぐ)、性生活(階段を2階まで昇れる程度の運動耐容能があれば可能とされる)、仕事への復帰、車の運転、旅行、内服の継続を扱う。運動については、心肺運動負荷試験に基づいて強度を決め、自覚的運動強度(ボルグスケールで11〜13、「楽である」から「ややきつい」)を目安にする。危険な徴候(胸痛、強い息切れ、動悸、めまい、冷汗)が出たら中止し、受診するよう伝える。この事例の患者は「血管をつないだから安心ですね」と話しており、治療で治ったと受け取っている可能性がある。冠動脈疾患は動脈硬化を基盤とする慢性の病態であり、危険因子の管理(禁煙、血圧、脂質、血糖、体重)と服薬の継続が再発予防に不可欠であることを、この機会に伝える必要がある。
間違えやすい考え方
『適切な生活指導』を問う型で、誤肢が負荷を増やす条件と一律の禁止である。時間・温度・水位で切る。
5分で振り返る
①食後は腹部内臓へ血流が集まるため、入浴は1時間以上あける。②湯温は40℃前後(43℃以上は交感神経を刺激し心負荷を増す)。③肩まで浸かると水圧で静脈還流が増え前負荷が高まる→半身浴。④脱衣所と浴室を暖めて温度差を減らす。⑤飲酒後の入浴は避ける。⑥心機能が安定していれば入浴は可能、一律に禁じない。⑦「治った」と受け取っている場合は危険因子の管理と服薬継続を伝える。
1分チェック
- 心疾患のある人の入浴の条件は。→ 食後1時間以上、40℃前後、半身浴、脱衣所を暖める。
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