次の文を読み、問いに答えよ。Aさん(57歳、男性)は、芳香族アミンを扱う化学工場に39年勤務している。現病歴:ここ数か月で次第に尿の色が濃くなった。いきまないと排尿できなくなり、泌尿器科を受診し、採血および尿検査を受けた。既往歴:特記すべき点なし。生活歴:喫煙40本/日を36年間、焼酎120mLの飲酒をほぼ毎日、20年間続けている。身体所見:顔面、四肢に浮腫なし、黒色便なし、血便なし。検査所見:赤血球308万/μL、Hb9.9g/dL、血清アルブミン4.2g/dL、血清総ビリルビン0.2mg/dL、血糖102mg/dL、ヘモグロビンA1c〈HbA1c〉5.4%。
A さんの尿所見で予測されるのはどれか。
公式正答:3
解説
芳香族アミンを扱う化学工場に39年勤務し、40本/日を36年間の喫煙歴があり、数か月で尿の色が濃くなり排尿にいきみを要する57歳男性の尿所見で予測されるものを問う。肉眼的血尿である。
この問題で問われていること
職業曝露と喫煙という危険因子から疾患を推定し、その症状を導けるか。
しくみから理解する
芳香族アミンは、膀胱癌の職業性の原因物質として古くから知られ、染料や化学工業での曝露が問題になってきた。体内で代謝されて生じた発癌物質が尿中に排泄され、膀胱粘膜に長時間接触することで発癌に至る。喫煙も膀胱癌の最大の危険因子で、40本/日を36年間という曝露は極めて大きい。膀胱癌の最も特徴的な症状が、痛みを伴わない肉眼的血尿である。「尿の色が濃くなった」という訴えは、血尿を指している可能性が高い。腫瘍が膀胱頸部や尿道に及べば、排尿困難といきみも生じる。ヘモグロビン9.9g/dLという貧血も、持続する血尿による失血と矛盾しない。
選択肢ごとの確認
蛋白尿は、糸球体腎炎やネフローゼ症候群といった腎実質の疾患でみられる。この事例は血清アルブミン4.2g/dLと正常で、浮腫もなく、腎実質の疾患を示唆する所見がない。
尿糖陽性は、血糖が腎の再吸収の閾値(おおむね160〜180mg/dL)を超えた場合に生じる。この事例は血糖102mg/dL、ヘモグロビンA1c 5.4%と正常であり、該当しない。
ビリルビン尿は、抱合型ビリルビンが増加する肝胆道系の疾患でみられ、尿が褐色を呈する。この事例は血清総ビリルビン0.2mg/dLと正常であり、否定される。なお『尿の色が濃い』という訴えからビリルビン尿を考えることもできるが、検査値がそれを除外している。
もっと詳しく読む
混同しやすいポイント
事例文の検査値が、すべて除外のために配置されている。血清アルブミン正常(ネフローゼを否定)、血糖とヘモグロビンA1c正常(尿糖を否定)、総ビリルビン正常(ビリルビン尿を否定)。一方、職業曝露、喫煙、貧血が血尿を支持する。検査値を、何を除外するために書かれているかという視点で読むと、答えが浮かび上がる。
理解を深める
膀胱癌は男性に多く、無症候性肉眼的血尿が典型的な初発症状になる。痛みがないため受診が遅れやすく、また血尿が一時的に消えることもあり(間欠的血尿)、治ったと誤解されやすい。この点は患者教育として重要で、一度でも肉眼的血尿があれば、消えても必ず受診するよう伝える。診断は、尿細胞診、膀胱鏡、超音波、CTによる。治療は、筋層非浸潤性であれば経尿道的膀胱腫瘍切除術(TURBT)と膀胱内注入療法(BCGまたは抗癌薬)、筋層浸潤性であれば膀胱全摘出術と尿路変向術が行われる。再発率が高いため、長期の経過観察(定期的な膀胱鏡)が必要になる。職業性の膀胱癌は労働災害の認定対象であり、該当する可能性がある場合は、労災の申請について情報提供し、産業保健や医療ソーシャルワーカーと連携する。この視点は、患者の経済的な負担の軽減に直結する。
間違えやすい考え方
事例から症状を予測する型で、誤肢がすべて検査値により除外できる。検査値を除外の材料として読む。
5分で振り返る
①芳香族アミンは膀胱癌の職業性原因物質、喫煙は最大の危険因子。②典型的な初発症状は痛みを伴わない肉眼的血尿。③血尿は間欠的に消えることがあり、治ったと誤解されやすい。④蛋白尿は腎実質、尿糖は高血糖、ビリルビン尿は肝胆道系(いずれも検査値で除外)。⑤診断は尿細胞診・膀胱鏡・画像。⑥筋層非浸潤性はTURBTと膀胱内注入、浸潤性は全摘と尿路変向。⑦職業性なら労災の対象になりうる。
1分チェック
- 芳香族アミンと喫煙から疑う疾患と症状は。→ 膀胱癌、無症候性の肉眼的血尿。
この問題に対応する教材の確認中です。