次の文を読み、問いに答えよ。Aさん(57歳、男性)は、芳香族アミンを扱う化学工場に39年勤務している。現病歴:ここ数か月で次第に尿の色が濃くなった。いきまないと排尿できなくなり、泌尿器科を受診し、採血および尿検査を受けた。既往歴:特記すべき点なし。生活歴:喫煙40本/日を36年間、焼酎120mLの飲酒をほぼ毎日、20年間続けている。身体所見:顔面、四肢に浮腫なし、黒色便なし、血便なし。検査所見:赤血球308万/μL、Hb9.9g/dL、血清アルブミン4.2g/dL、血清総ビリルビン0.2mg/dL、血糖102mg/dL、ヘモグロビンA1c〈HbA1c〉5.4%。
A さんは術後から、これまでにはなかった勃起障害が出現した。A さんのテス トステロン値は13.5 pg/mL(50 歳代の基準値:4.6〜19.6 pg/mL)であった。 A さんの勃起不全〈erectile dysfunction〉の原因で考えられるのはどれか。
公式正答:2
解説
膀胱全摘出術後に勃起障害が出現し、テストステロン値は基準範囲内であった57歳男性の勃起不全の原因を問う。神経損傷である。
この問題で問われていること
検査値による除外と、術式による解剖学的な影響から原因を特定できるか。
しくみから理解する
勃起は、骨盤内臓神経(副交感神経)を介した血管の拡張により、陰茎海綿体へ血液が流入することで生じる。この神経は膀胱と前立腺の周囲を走行しているため、膀胱全摘出術では損傷を受けやすい。神経を温存する術式もあるが、癌の広がりによっては切除が優先される。設問では、テストステロン値が13.5pg/mLで50歳代の基準値4.6〜19.6pg/mLの範囲内であることが示されており、ホルモンの低下による勃起障害は除外される。手術を契機に出現したという経過も、神経損傷を支持する。
選択肢ごとの確認
性ホルモン分泌の低下は、テストステロン値が基準範囲内であることから除外される。設問がわざわざ基準値を併記しているのは、この除外を求めているためである。加齢に伴うテストステロンの低下(男性の性腺機能低下症)は、勃起障害の原因になりうるが、この事例では該当しない。
糖尿病は、末梢神経障害と血管障害を介して勃起障害の重要な原因になる。しかしこの事例では、血糖102mg/dL、ヘモグロビンA1c 5.4%と正常であり、糖尿病はない。
喫煙は、血管内皮の障害と動脈硬化を介して勃起障害の危険因子になる。この事例には長期の喫煙歴があり、背景因子としては関わりうる。ただし、術後にこれまでなかった障害が新たに出現したという経過は、手術という明確な契機を示しており、神経損傷が主たる原因と考えられる。
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混同しやすいポイント
『これまでにはなかった』『術後から』という時間的な経過が、原因を絞る手がかりになる。長年の喫煙歴があっても、それだけでは術後に急に出現した理由を説明できない。加えて、テストステロンと血糖という2つの検査値が、それぞれ選択肢1と3を除外するために提示されている。事例文の情報が、どの選択肢を落とすためのものかを対応づけると整理できる。
理解を深める
骨盤内の手術(膀胱全摘、前立腺全摘、直腸切断術)では、勃起と射精に関わる神経が損傷されうる。勃起は副交感神経(骨盤内臓神経)、射精は交感神経(下腹神経)が担うため、損傷の部位によって現れる障害が異なる。性機能の問題は、患者から自発的に語られにくく、医療者も尋ねにくい領域である。しかし生活の質に大きく関わるため、術前から起こりうる変化として説明し、術後も尋ねる機会を持つことが必要になる。対応としては、ホスホジエステラーゼ5阻害薬(神経が完全に損傷している場合には効果が限られる)、陰圧式勃起補助具、陰茎海綿体注射、陰茎プロステーシスといった方法があり、専門医への相談につなげる。また、性のあり方は挿入だけではないこと、パートナーとの関係の中で何を大切にするかを話し合えることも、支援の一部になる。ストーマの造設も加わっており、ボディイメージの変化と性の問題が重なっている点に配慮する。
間違えやすい考え方
原因を問う型で、誤肢が検査値で除外できるものと背景因子である。経過(術後に新たに出現)と検査値で切る。
5分で振り返る
①勃起は骨盤内臓神経(副交感神経)を介した血管拡張による。②膀胱と前立腺の周囲を走行するため、骨盤内手術で損傷されうる。③テストステロンが基準範囲内なら内分泌性を除外できる。④血糖とヘモグロビンA1cが正常なら糖尿病性を除外できる。⑤『術後から新たに出現』という経過が神経損傷を支持する。⑥射精は交感神経(下腹神経)が担う。⑦術前から起こりうる変化として説明し、術後も尋ねる。
1分チェック
- 膀胱全摘後の勃起障害の原因は。→ 骨盤内臓神経の損傷(テストステロンが正常なら内分泌性を除外)。
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