次の文を読み、問いに答えよ。Aさん(80歳、女性)は、アパートの1階に1人で暮らしている。半年前に軽度のAlzheimer〈アルツハイマー〉型認知症Alzheimerdiseaseと診断され、抗認知症薬の内服治療を開始した。要支援2の認定を受けている。Aさんが屋内でぐったりしているのを訪問した近所の人が発見し、救急搬送された。来院時のバイタルサインは、体温36.5℃、呼吸数20/分、脈拍92/分、血圧130/82mmHgで、皮膚に軽度の発汗がみられた。頭痛や吐き気はなかった。看護師がAさんに状況を聞くと、最近は食欲がなく、食べたり飲んだりしていなかったし、昨日は排尿回数も普段より少なかったと話した。
A さんは、経過を観察するため入院となった。入院2日、A さんの全身状態は 改善し、食事が開始された。A さんは歩行時にふらつきがあるため、看護師が見 守ることになった。看護師はベッドから離れるときは、ナースコールを押すように A さんに説明した。そのときA さんは「忘れずにできるかしら」と呟いた。しばら くすると、A さんが1人で移動しているところを看護師が発見した。 A さんへの対応で適切なのはどれか。
公式正答:3
解説
認知症のある80歳女性が、ナースコールを押すよう説明されて「忘れずにできるかしら」と呟き、その後1人で移動しているところを発見された場面での対応を問う。ナースコールが目立つように目印をつけることである。
この問題で問われていること
本人の力を活かしながら、記憶の負担を減らす環境調整を選べるか。
しくみから理解する
この患者は「忘れずにできるかしら」と、自分が忘れる可能性を自覚して不安を述べている。実際に一人で移動しており、ナースコールを押すという行為が実行されなかった。問題は、意欲や理解ではなく、その場でナースコールの存在と用途を思い出せないことにある。目印をつけて目立たせることは、記憶に頼らずに視覚的な手がかりで行動を促す方法であり、認知機能の低下を補う環境調整にあたる。本人ができることを増やす方向の対応になる。
選択肢ごとの確認
ヒッププロテクターは、転倒したときの大腿骨近位部骨折を防ぐ用具である。転倒そのものを防ぐものではなく、また装着を忘れる、暑い、着脱しにくいといった問題もある。転倒の予防を考える段階での第一の対応にはならない。
ベッドサイドに車椅子を設置すると、歩行がふらつく患者が自分で車椅子へ移ろうとして、かえって転倒の危険が高まる。ブレーキをかけ忘れる、立ち上がりの途中でバランスを崩すといった事故につながる。
爪先だけが床につく高さは、足の長さに対して高すぎる。ベッドを下げれば足底全体が床につく。ベッドの高さは、端座位で足底全体が床につき、膝が約90度に曲がる高さが適切になる。爪先だけが触れる状態では、立ち上がるときに不安定になり、転倒しやすい。
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混同しやすいポイント
誤肢は、転倒後の被害を減らすもの(ヒッププロテクター)、危険を増やすもの(車椅子の設置、高すぎるベッド)で構成されている。この場面で必要なのは、転倒そのものを防ぐことであり、しかも身体拘束や行動の制限によらない方法である。認知機能の低下がある人には、記憶に頼らせず、環境の側で手がかりを作るという原則が有効になる。
理解を深める
認知症のある人の転倒予防では、いくつかの視点を組み合わせる。環境では、ベッドの高さ、手すり、照明(夜間の足元灯)、床の状態、履物、必要な物を手の届く位置に置く、トイレまでの経路を短く分かりやすくする(表示、目印)。身体では、筋力とバランス、視力、めまい、薬剤(睡眠薬、抗不安薬、降圧薬、抗精神病薬)の影響。行動では、その人が動く理由(トイレ、痛み、不安、退屈、探し物)を理解し、その理由に対応する。動くこと自体を止めようとすると、身体拘束につながり、かえって身体機能と認知機能を低下させる。離床センサーは有用だが、鳴ってから駆けつけるまでに転倒することもあり、これだけに頼らない。定時のトイレ誘導や、そばで見守れる場所への移動(デイルームなど)も有効な方法になる。この事例では、退院後の在宅生活を見据えて、自宅の環境調整と、介護支援専門員への情報提供につなげることも必要になる。
間違えやすい考え方
『適切な対応』を問う型で、誤肢が被害軽減と危険を増やす環境である。転倒そのものを防ぐ環境調整で切る。
5分で振り返る
①記憶に頼らせず、視覚的な手がかりで行動を促す。②ヒッププロテクターは転倒後の骨折予防で、転倒自体は防げない。③ベッドサイドの車椅子は自力移乗を誘発して危険。④ベッドの高さは端座位で足底全体が床につき膝が約90度。⑤動く理由(トイレ・痛み・不安・退屈)に対応する。⑥動きを止めることは身体拘束につながり機能を低下させる。⑦離床センサーだけに頼らない。
1分チェック
- ナースコールを忘れる人にどうするか。→ 目印をつけて目立たせる(記憶に頼らず視覚的な手がかりで補う)。
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