次の文を読み、問いに答えよ。Aさん(65歳、女性)は、夫と2人で暮らしている。友人の死去後、食事量が減り、1か月前から気分の落ち込みが強くなった。夫が積極的に散歩に誘っても、Aさんは「体がだるい」「何をしても意味がない」と話し、寝つきも悪くなり、日中ほとんどの時間を臥床して過ごすようになった。心配した夫に連れられて精神科外来を受診したところ、うつ病〈depression〉と診断され、選択的セロトニン再取り込み阻害薬〈SSRI〉と不眠時の睡眠薬が処方された。夫から精神科外来の看護師に「日常生活で気を付けることはありますか」と質問があった。
A さんと夫に看護師が説明する内容で適切なのはどれか。
公式正答:3
解説
うつ病と診断され選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)と不眠時の睡眠薬が処方された65歳女性と夫への説明を問う。「薬の飲み始めは吐き気や下痢に注意してください」である。
この問題で問われていること
薬剤の副作用の出現時期と、急性期の療養の原則を把握しているか。
しくみから理解する
SSRIは、シナプス間隙でのセロトニンの再取り込みを阻害して濃度を高める薬である。セロトニン受容体は消化管にも多く分布しているため、投与初期に悪心、嘔吐、下痢といった消化器症状が現れやすい。これらは多くが1〜2週間で軽減するが、事前に知らされていないと、副作用に驚いて自己中断してしまう。抗うつ効果が現れるまでには2〜4週間を要するため、効果が出る前に副作用だけを経験する時期があり、この時期を乗り越えられるかが治療の継続を左右する。したがって、あらかじめ伝えておくことが重要になる。
選択肢ごとの確認
毎朝の運動の習慣を作るという助言は、急性期には適さない。この患者は「体がだるい」「何をしても意味がない」と話し、日中ほとんど臥床している状態である。うつ病の急性期には、十分な休息を保証することが治療の基本であり、活動を求めることは負担になる。「頑張れない自分」を意識させ、自責感を強める危険もある。運動は回復期に、本人のペースで少しずつ取り入れる。
食欲がないときに食事の回数を減らすことは適切でない。摂取量が減っている状態で回数まで減らせば、栄養と水分の不足が進む。むしろ1回量を減らして回数を分ける、食べやすいものを選ぶ、時間にこだわらないといった工夫で、摂れる形を探す。
睡眠薬を早朝に飲むことは適切でない。早朝に服用すると、日中に眠気とふらつきが残り、転倒の危険が高まる。とくに高齢者では持ち越し効果が出やすい。不眠時の頓用は、就寝前あるいは中途覚醒時の早い時間帯までとし、明け方に近い時間の服用は避けるよう指導する。
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混同しやすいポイント
誤肢はいずれも、うつ病の急性期における原則(休息の保証、栄養の確保、薬剤の安全な使用)に反している。とくに選択肢1は、善意の助言として実際にもよく行われるが、急性期には有害になりうる。夫が「積極的に散歩に誘っても」応じないという記述があり、家族が既に励ます関わりをしていることも読み取れる。この家族への説明として何が必要かを考えると、休息の意義を伝えることも含まれる。
理解を深める
うつ病の急性期の療養では、休息の保証、安全の確保(自殺のリスク評価)、確実な服薬、栄養と水分の確保が中心になる。家族への説明としては、励まさない(頑張れという言葉は追い詰める)、大きな決断を先延ばしにする、回復には時間がかかることを伝える、家族自身も疲れるので支援を受けてよいことを含める。SSRIの副作用としては、消化器症状のほか、投与初期の不安・焦燥の増強(賦活症候群)、性機能障害、低ナトリウム血症(高齢者で注意)、そして中止時の離脱症状がある。24歳以下では自殺念慮のリスクが高まる可能性が指摘されており、投与初期の観察が重要になる。複数のセロトニン作動薬の併用ではセロトニン症候群(不安、興奮、発熱、筋強剛、反射亢進、下痢)に注意する。高齢者では、腎機能と肝機能、他の薬剤との相互作用、転倒のリスクを考慮して、少量から開始する。この事例では、友人の死去という喪失体験が発症の契機になっており、悲嘆の過程との関連も含めて理解する必要がある。
間違えやすい考え方
『適切な説明』を問う型で、誤肢が急性期の原則に反する内容である。休息の保証と薬剤の安全な使用で切る。
5分で振り返る
①SSRIは投与初期に悪心・嘔吐・下痢が出やすく、多くは1〜2週間で軽減する。②抗うつ効果は2〜4週間後、副作用だけの時期があるので事前に伝える。③急性期は休息の保証が基本、運動や活動を求めない。④食欲低下では回数を減らさず、1回量を減らして分ける。⑤睡眠薬の早朝服用は日中の眠気とふらつき、転倒を招く。⑥賦活症候群、低ナトリウム血症、セロトニン症候群に注意。⑦家族には「励まさない」ことを伝える。
1分チェック
- SSRIの飲み始めに注意することは。→ 悪心・下痢などの消化器症状(効果が出るのは2〜4週間後)。
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