次の文を読み、問いに答えよ。Aさん(65歳、女性)は、夫と2人で暮らしている。友人の死去後、食事量が減り、1か月前から気分の落ち込みが強くなった。夫が積極的に散歩に誘っても、Aさんは「体がだるい」「何をしても意味がない」と話し、寝つきも悪くなり、日中ほとんどの時間を臥床して過ごすようになった。心配した夫に連れられて精神科外来を受診したところ、うつ病〈depression〉と診断され、選択的セロトニン再取り込み阻害薬〈SSRI〉と不眠時の睡眠薬が処方された。夫から精神科外来の看護師に「日常生活で気を付けることはありますか」と質問があった。
A さんの症状は半年ほどで落ち着き、夫との散歩や料理を楽しみ、特に問題な く過ごせるようになった。精神科受診を終了して1年後、A さんは再び家にこも りがちになった。夫の話では、急に料理の作り方や人の名前を何度も確認するな ど、家事に時間がかかるようになった。A さんは「何もできないと思っているで しょ」と、ささいなことに怒ったり、急に泣き出すことが増え、夫と一緒に精神科 外来を再受診した。 頭部MRI 検査の結果、多発性脳梗塞がみられ、血管性認知症 vascular dementia と診断された。A さんは「自分が認知症 dementia なんて信じられない。もう治らない」と話した。 A さんに認められるのはどれか。2つ選べ。
公式正答:1・5
解説
多発性脳梗塞による血管性認知症と診断された65歳女性にみられる症状を2つ問う。感情失禁と実行機能障害である。
この問題で問われていること
血管性認知症に特徴的な症状を、他の症状と区別できるか。
しくみから理解する
感情失禁(情動失禁)は、わずかな刺激で泣いたり怒ったりし、感情の表出を抑えられない状態で、血管性認知症に特徴的な症状である。前頭葉と皮質下を結ぶ経路の障害により、感情の制御が働かなくなることによる。設問文の「ささいなことに怒ったり、急に泣き出すことが増え」という記述がこれにあたる。実行機能障害は、目標を立て、計画し、順序立てて実行し、修正する働きの障害で、前頭葉と皮質下の血管障害により早期から現れる。「料理の作り方を何度も確認する」「家事に時間がかかる」という記述が該当する。
選択肢ごとの確認
観念奔逸は、次々と考えが浮かんで話題が飛び、まとまりを欠く状態で、躁状態の症状である。この事例には該当しない。
強迫行為は、無意味と分かっていてもやめられない行為を繰り返すもので、強迫症でみられる。「何度も確認する」という記述から強迫行為を連想しやすいが、強迫行為は不安を打ち消すための儀式的な反復であり、本人が不合理と認識している点が異なる。この事例の確認は、覚えていられないために生じており、記憶と実行機能の障害による。
心気妄想は、重い病気にかかっているという確信で、うつ病の微小妄想(貧困妄想、罪業妄想、心気妄想)の一つである。この患者にはうつ病の既往があるが、今回の症状はそれではない。
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混同しやすいポイント
選択肢3が最も紛らわしい。「何度も確認する」という同じ行動が、強迫行為でも認知症でも起こりうる。区別は、なぜ繰り返すかにある。強迫行為は不安を打ち消すためで、本人は無意味だと分かっている。認知症では、確認したこと自体を覚えていない、あるいは手順を組み立てられないために繰り返す。行動の表面ではなく、その背景を読む必要がある。
理解を深める
血管性認知症は、脳血管障害によって生じる認知症で、アルツハイマー型認知症に次いで多い。特徴として、階段状に悪化する経過(脳血管障害を起こすたびに段階的に悪化する)、まだら認知症(障害される機能と保たれる機能が混在する)、病識が比較的保たれること、感情失禁、意欲の低下、実行機能障害が早期から目立つこと、歩行障害や構音障害、嚥下障害といった神経症状を伴うことが挙げられる。アルツハイマー型は、緩やかに進行し、記憶障害から始まり、病識が乏しいことが多い点で対比される。血管性認知症では、原因となる血管障害の再発予防(高血圧、糖尿病、脂質異常症、心房細動の管理、禁煙)が進行の抑制につながる点が重要になる。この事例では「自分は何もできないと思っているでしょ」という発言があり、病識が保たれているために、できなくなることへの苦痛と自尊心の傷つきを強く体験していることが読み取れる。この苦痛への配慮が、看護の中心になる。
間違えやすい考え方
2つ選べの型で、誤肢に同じ行動を別の機序で説明する概念(強迫行為)が置かれている。行動の背景で切る。
5分で振り返る
①感情失禁=わずかな刺激で泣いたり怒ったりし制御できない、血管性認知症に特徴的。②実行機能障害=計画し順序立てて実行する働きの障害、早期から現れる。③「何度も確認する」は強迫行為とは異なり、覚えていられないことによる。④強迫行為は不安を打ち消す儀式で、本人が不合理と認識している。⑤血管性認知症は階段状の悪化、まだら認知症、病識が保たれやすい。⑥再発予防(血圧・血糖・脂質・心房細動・禁煙)が進行の抑制になる。
1分チェック
- 血管性認知症に特徴的な症状は。→ 感情失禁と実行機能障害。
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