次の文を読み、問いに答えよ。午前9時、震度6強の大地震が発生した。発災直後、A病院では傷病者への対応として救急病棟に8床確保した。その応援のために各部署から看護師3名、医師2名、臨床工学技士1名、臨床検査技師1名、理学療法士1名が救急病棟に集まった。救急病棟のリーダー看護師は他部署から集まったスタッフとカンファレンスを行った。
発災2 時間後、救護所に2 名の傷病者が同時に到着した。 B 氏(63 歳、男性): 避難の途中に転倒し、右足首を負傷した。「自力で歩いてき た。痛みは我慢できる程度」と話す。 体温37.2 ℃、呼吸数12/分、脈拍82/分、血圧140/80 mmHg、経皮的動脈血酸素飽和度〈SpO2〉97 %。右足首に内出 血がある。発汗著明、頭痛はない。 C 氏(36 歳、男性): 避難の途中でつまずき、右側腹部をガードレールにぶつけ た。「ここが少し痛むだけ」と右側腹部を押さえている。 体温37.4 ℃、呼吸数20/分、脈拍84/分、血圧110/74 mmHg、経皮的動脈血酸素飽和度〈SpO2〉96 %、皮膚冷感な し、右側腹部に軽度の発赤があるが腫脹や外出血はない、腹 壁緊張はない。 10 分経過後、看護師は2 名の観察を行った。 B 氏: 右足首の内出血と腫脹が軽度増大している。体温37.5 ℃。他のバイタルサ インに変動はない。 C 氏: 「少しお腹が痛い、吐き気がする」と訴える。体温37.4 ℃、呼吸数24/分、 脈拍98/分、血圧88/48 mmHg、経皮的動脈血酸素飽和度〈SpO2〉94 %。腹 壁緊張あり。 このときの看護師の対応で優先されるのはどれか。
公式正答:4
解説
救護所に到着した2名の傷病者について、10分後の観察でC氏に血圧低下と腹壁緊張が出現した場面での対応の優先を問う。C氏の静脈路確保の準備である。
この問題で問われていること
バイタルサインの変化から、進行している病態を読み取って行動を選べるか。
しくみから理解する
C氏は右側腹部をガードレールにぶつけており、到着時は外見上の所見が乏しかった。10分後、脈拍84→98/分、血圧110/74→88/48mmHg、SpO2 96→94%と変化し、腹壁緊張が出現し、腹痛と嘔気を訴えている。これは腹腔内出血の進行を強く示唆する。右側腹部の鈍的外傷では肝損傷が起こりやすく、当初は被膜下に留まっていた出血が破綻して腹腔内へ広がると、この経過をたどる。出血性ショックへ向かっているため、循環の確保が最優先となり、静脈路を確保して輸液を開始し、緊急搬送につなげる必要がある。トリアージ区分は緑から赤へ変わる。
選択肢ごとの確認
B氏は右足首の外傷で、バイタルサインは安定しており、内出血と腫脹の軽度増大にとどまる。水分補給は必要な配慮だが、緊急性はC氏に大きく劣る。
発汗著明という所見から熱中症を疑う考え方もあるが、体温37.5℃で頭痛なく、他のバイタルサインは安定している。冷却は行ってよいが、循環が破綻しつつあるC氏より優先されない。
嘔気の訴えに備えることは必要だが、対症的な準備である。いま進行しているのは出血性ショックであり、循環の確保が先に来る。
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混同しやすいポイント
この設問の要点は、トリアージが一度きりではないという点である。到着時に軽症(緑)と判断された傷病者が、時間の経過とともに重症化することがある。だから繰り返し評価する。C氏の変化は、収縮期血圧の低下と脈拍の上昇という、出血を示す古典的な組合せで示されている。ショック指数(心拍数÷収縮期血圧)は98÷88=1.1で、1.0を超えており出血量の増加を示唆する。
理解を深める
腹部の鈍的外傷では、実質臓器(肝、脾、腎)の損傷による腹腔内出血が問題になる。受傷直後は症状が乏しく、数十分から数時間かけて症状が現れる遅発性の経過をとることがあるため、経過観察が重要になる。所見としては、腹痛、腹壁緊張、反跳痛、腹部膨隆、血圧低下、頻脈、皮膚の蒼白と冷感、意識レベルの低下がある。災害現場では画像検査が使えないため、バイタルサインの推移と身体所見の変化が判断の柱になる。対応は、静脈路の確保と輸液、保温、酸素投与、そして手術可能な医療機関への速やかな搬送である。搬送の優先順位も、この時点でC氏が最上位になる。
間違えやすい考え方
優先度を問う型で、2人の傷病者の経時的な変化が示されている。数値の変化(血圧の低下、脈拍の上昇)を読み取れるかで決まる。所見の羅列に見えるが、変化そのものが答えを指している。
5分で振り返る
①トリアージは繰り返し行う(緑が赤に変わりうる)。②血圧低下+脈拍上昇+腹壁緊張=腹腔内出血の進行。③右側腹部の鈍的外傷では肝損傷。④ショック指数1.0超で出血量の増加を示唆。⑤対応は静脈路確保・輸液・保温・酸素・緊急搬送。⑥腹部外傷は遅発性に症状が出ることがある。
1分チェック
- 血圧低下・頻脈・腹壁緊張が出現したらどうするか。→ 出血性ショックを疑い静脈路を確保する。
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