A さん(58 歳、男性)は農作業中に有機リン系殺虫剤を散布していたところ、急 な嘔気と頭痛、呼吸困難が出現したため救急搬送された。搬入時、呼吸は促迫で流 涎があり、縮瞳が認められた。 A さんに直ちに投与される薬剤はどれか。
公式正答:4
解説
有機リン系殺虫剤の散布中に嘔気・頭痛・呼吸困難を生じ、流涎と縮瞳を認める患者に直ちに投与する薬剤を問う。アトロピン硫酸塩水和物である。
この問題で問われていること
中毒の症状から原因物質を同定し、対応する解毒薬を選べるか。
しくみから理解する
有機リンはアセチルコリンエステラーゼを不可逆的に阻害する。この酵素はシナプス間隙のアセチルコリンを分解する役割を担うため、阻害されるとアセチルコリンが蓄積し、ムスカリン受容体とニコチン受容体が過剰に刺激される。ムスカリン様症状として、縮瞳、流涎、流涙、発汗、気道分泌の増加、気管支攣縮、徐脈、下痢、尿失禁が生じ、ニコチン様症状として筋線維束攣縮、脱力、麻痺が現れる。アトロピンはムスカリン受容体を遮断するため、気道分泌の抑制と気管支拡張、徐脈の改善に働き、生命を脅かす症状を直ちに軽減する。あわせてプラリドキシムヨウ化物(PAM)を用いて酵素の再賦活を図る。
選択肢ごとの確認
ワルファリン過量投与や新生児・乳児ビタミンK欠乏性出血症に対する解毒・補充薬である。有機リン中毒には効かない。
強オピオイド鎮痛薬である。呼吸抑制作用があるため、気道分泌増加と呼吸困難のある状態ではむしろ危険である。
MRSAなどに用いる抗菌薬である。中毒の治療薬ではない。
もっと詳しく読む
混同しやすいポイント
縮瞳をきたす代表的な中毒には、有機リンとオピオイドがある。有機リンでは流涎・気道分泌増加・発汗などの分泌亢進を伴い、オピオイドでは呼吸抑制と意識障害が主体で分泌は増えない。この違いで区別する。オピオイド中毒の拮抗薬はナロキソンである。
理解を深める
有機リン中毒では、救助者自身の二次曝露を防ぐことが重要である。個人防護具を着用し、患者の衣類を脱がせて全身を洗浄(除染)してから処置を行う。呼吸管理が最優先で、気道分泌が多いため頻回の吸引と、必要なら気管挿管・人工呼吸を行う。アトロピンは気道分泌が減るまで反復投与し、瞳孔径ではなく分泌と呼吸状態を指標にする。PAMは酵素が不可逆的に結合(エージング)する前に投与するほど効果的で、早期投与が求められる。中毒全般では、原因物質の特定、曝露の停止、吸収の阻止、排泄の促進、拮抗薬の投与という原則で対応し、中毒110番などの情報源を活用する。
間違えやすい考え方
症状から原因を推定させる型で、縮瞳と流涎という2つの所見が決め手になる。薬剤名だけを並べる誤肢は、症状との対応を知らないと選べない。
5分で振り返る
①有機リンはコリンエステラーゼを阻害しアセチルコリンが蓄積。②ムスカリン様症状=縮瞳・流涎・気道分泌増加・徐脈・下痢。③ニコチン様症状=筋攣縮・脱力。④アトロピンでムスカリン受容体を遮断、PAMで酵素を再賦活。⑤救助者の二次曝露を防ぎ除染する。⑥オピオイド中毒の拮抗薬はナロキソン。
1分チェック
- 有機リン中毒の解毒薬は何か。→ アトロピン(+PAM)。
この問題に対応する教材の確認中です。