次の文を読み、問いに答えよ。Aさん(26歳、女性)は高校生のころからリストカットを繰り返し、borderlinepersonalitydisorderボーダーラインパーソナリティ症〈境界性パーソナリティ障害〉の診断を受けている。最近仕事が忙しくなったパートナーに「今すぐ返事が欲しい。私を見捨てるのか」とメールを送り続け、帰宅したパートナーが、手首から血を流しているAさんを見つけた。パートナーに付き添われて総合病院の救急外来を受診したAさんは、意識清明で神経損傷はなく、手首の処置をした看護師に「消えてしまいたい。生きている意味がない」と話した。
処置時の看護師の声かけで適切なのはどれか。
公式正答:2
解説
リストカット後に「消えてしまいたい。生きている意味がない」と話す患者への声かけを問う。死にたいと思うほどつらかったのですね、と返すことである。
この問題で問われていること
自殺念慮を打ち明けられたとき、まず何をすべきかを理解しているか。
しくみから理解する
自傷や希死念慮を語ることは、本人にとって大きな勇気を要する。ここで否定されたり説教されたりすると、二度と語らなくなり、援助にたどり着けなくなる。まず必要なのは、その苦痛を受け止めていることを言葉で返すことである。『死にたいと思うほどつらかった』という返しは、感情の強さを認め、評価も批判もせずに受け取ったことを伝える。これによって関係が保たれ、続けて事情を聴き、危険度を評価し、必要な支援につなぐことができる。傾聴と受容が、その後のすべての介入の土台になる。
選択肢ごとの確認
他者への配慮を求めることで、本人の苦痛を後回しにしている。自分のつらさを聞いてもらえないうえ、他人を苦しめているという罪責感を上乗せすることになる。
一般論の説明であり、いま処置を受けながら死にたいと語っている人への応答になっていない。本人の行動を暗に責める意味にも受け取られる。
行動の禁止であり、指導になっている。自傷は本人にとって、耐えがたい感情を切り抜けるための手段になっていることが多い。代わりの方法を持たないまま禁じられても実行できず、責められた感覚だけが残る。まず受け止め、後の段階で対処法を一緒に探す。
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混同しやすいポイント
自殺念慮に触れることを避けるべきではない、という点も重要である。『死にたい』と聞いて話題をそらすと、本人は語る場を失う。むしろ具体的に尋ねる(いつから、どのくらい、方法を考えているか、準備をしているか)ことが、危険度の評価と安全確保につながる。尋ねることで自殺を促すことにはならないことが知られている。
理解を深める
境界性パーソナリティ症では、見捨てられることへの強い不安、対人関係の不安定さ、感情の激しい変動、衝動性、繰り返す自傷が特徴となる。自傷は、耐えがたい感情の緩和、解離状態からの回復、他者への訴えといった機能を持つ。援助では、一貫した対応、明確な枠組み(面会の時間、対応の範囲)、感情に巻き込まれない距離の保ち方が重要になる。同時に、本人の苦痛は本物であり、操作的だと決めつけない姿勢が必要である。治療としては弁証法的行動療法(DBT)などの心理療法が有効とされ、感情調整のスキルと苦悩耐性のスキルを学ぶ。救急外来では、身体の処置とともに、精神科への連携、安全の確保、家族やパートナーへの支援も検討する。
間違えやすい考え方
『適切なのはどれか』型で、誤肢が他者への配慮、一般論、行動の禁止という形で作られている。いずれも本人の感情を受け止めていない。まず受容という原則で選ぶ。
5分で振り返る
①まず傾聴と受容、否定も説教もしない。②自殺念慮は避けずに具体的に尋ねてよい(尋ねても促すことにはならない)。③自傷は感情を切り抜ける手段になっていることが多く、禁止だけでは止まらない。④境界性パーソナリティ症は見捨てられ不安と感情の不安定さが特徴。⑤一貫した対応と明確な枠組み。⑥DBTなどの心理療法が有効。
1分チェック
- 「死にたい」と語られたらまず何をするか。→ その苦痛を受け止めていると言葉で返す。
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